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歴誌主義宣言
斎藤成也 著

目次 立ち読み

 

人間に奉仕する学問として、末来を予測する「法則」を重んじてきた自然科学。その代表格が物理学で、これまでに数々の法則や理論が打ち立てられてきた。その一方で、これまで不当に軽んじられてきたのが「偶然」である、と著者の斎藤成也氏はいう。
進化のほとんどは偶然に左右されて進んで行くとする中立進化論の「伝道師」を自任する著者。今回の「歴誌主義宣言」はその考えをさらに推し進め、真につじつまの合う世界観は「有限」「偶然」「時間」に裏打ちされたこの「歴誌主義」によってしか記述し得ないと高らかに宣言する。学問の世界に議論を巻き起こすべく、常識に歯向かう1冊。

<書籍データ>
◇四六判上製仮フランス装 208ページ
◇定価:本体1,600円+税
◇2016年2月20日発売
◇ISBN: 978-4-86310-160-9

<著者プロフィール>
国立遺伝学研究所集団遺伝研究部門教授。総合研究大学院大学生命科学研究科遺伝学専攻教授と東京大学大学院理学系研究科生物科学専攻教授を兼任。1957年、福井県生まれ。著書に『日本列島人の歴史』(岩波ジュニア新書)、『自然淘汰論から中立進化論へ』(NTT出版)、『ゲノム進化学入門』(共立出版)、『生物学者と仏教学者 七つの対論』(共著・ウェッジ選書)などがある。

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<立ち読み>

あるとき、住んでいる街からとおくはなれた南の島にゆきました。天気のいい夜だったので、満天の星がみえました。すると、なぜか子ども時代をおもいだしたのです。ちいさいときから星をみなれてきたからということが、ひとつはあるでしょう。もうひとつ、星座はいつみても、かわらないからではないでしょうか。北斗七星とカシオペア座は北極星をはさんで反対側にあり、オリオン座はいつもの威容をほこっていました。
天空にちらばるこれら無数の星をみあげていると、この宇宙空間がいかに広大なものであるか、あらためて感じさせられます。しかし、宇宙といえども無限ではないのです。もしもこの宇宙が無限にひろがっているのならば、星も無限にあるはずです。だとすれば、夜空はこれら無限の星でおおわれて、昼のように明るい天空がみえるでしょう。しかし実際には暗闇が基本であり、ちらほらと星があるだけです。ということは、宇宙はじつは有限なのです。
宇宙は空間的に有限であるだけでなく、時間的にも有限です。一三八億年前と推定されている宇宙の誕生があり、その直後に、いわゆるビッグバンによって、現在の宇宙の基本的なすがたが、かたちづくられました。また、いずれは宇宙に終局がおとずれます。わたしたちは、このような有限の世界に生きているのです。かわらないようにみえる星座も、数億年、数十億年たてば、銀河系の回転などにより、かわってゆきます。
生命をかんがえると、いまのところわたしたちが知っているのは地球上の生命、それも表面のうすい部分だけです。地球の表面というちいさな世界での生命しか認識していません。時間的には、生命が誕生したおよそ三八億年前から現在まで、宇宙の年齢の四分の一ほどの長さです。この長大な時間のあいだに、単細胞から出発した生命は、きわめて多様な世界をうみだしてきました。わたしたち人間の世界を考えると、現代人の祖先は二〇万年ほど前にアフリカ大陸に出現し、その後六〜七万年前にアフリカからユーラシア大陸に広がってゆきました。さらにいわゆる歴史世界を考えれば、最古といわれるメソポタミア文明は、およそ六千年前に誕生しました。これら一連のできごとにおいて、時間における有限性と、ほとんど地球からは出ていないという、空間の有限性があります。
このように、人間は実際に自分の把握している世界が、空間的にも時間的にも有限であると認識しています。それにもかかわらず、いろいろな学問体系は、おおくの場合、無限状態を前提にして、さまざまな理論を展開してきました。統計学では無限母集団を考えますし、そのほうが数学的に取り扱いやすいからということで、数学や物理学のさまざまな分野で無限の状態を仮定したり、きわめて大きな数を無限で近似しています。しかしながら、世界が有限であることを無視したこれらの理論には、問題があります。(「はじめに」より)

 


 

<目次>

はじめに

第1部 歴誌主義とはなにか
  第1章 歴誌主義の誕生
  「歴史」とはなにか/歴史に傾倒する/すべては歴誌なのです/時間と歴史/
  SF作品にみる「時間」
  第2章 宗教と時間
  宗教をまなぶ/宗教における時間/紀元をめぐって
  第3章 無時間性の社会科学
  地理学の終焉/たそがれる民族学/他の社会科学

第2部 自然科学と歴誌主義
  第4章 歴誌学としての自然科学
  法則は方便にすぎない/ビッグバンから始まる宇宙の歴誌/偶然がうみだした一回かぎりの宇宙/
  近接作用と遠隔作
  第5章 数学をどう考えるのか
  熊楠とペンローズの世界のとらえ方/自然言語としての「数学」のなかにある矛盾/
  数学における「無限」の扱い/「無限」と人間の脳の限界
  第6章 物理学vs生物学
  物理帝国主義/博物学の勃興/生化学、そして現代生物学の発展へ/生物学でも「法則」
  第7章 現代統計学批判
  無限だと考えていたゲノム/宇宙飛行士は少人数なのに限りなくいる?
  第8章 物理学における時間について
  時間の方向性を説明できるのか/時間とはどのような存在か
  第9章 自然科学をどのようにとらえるのか
  自然科学は文化系の学問とは分けられない/自然科学における神秘主義、人間中心主義/
  リンネやダーウィンらがしめした生命の連続性/自然淘汰という神?/自然淘汰説から中立進化論へ

第3部 進化学と歴誌主義
  第10章 生物進化のメカニズム
  中立進化が出発点となった歴誌主義/突然変異こそ、進化の原動力/遺伝的浮動/
  自然淘汰は正にも負にもはたらく/進化の「負け犬説」
  第11章 進化を研究する
  分子生物学と生物進化/モデル生物研究の問題点/ゲノムの解読の進展がもたらした局面/
  わたしの研究室におけるゲノム進化の研究
  第12章 進化学における系統樹の重要性
  進化における年表としての系統樹/DNAがつくりだす系統関係/
  ヒト科ミトコンドリアDNAの系統樹/
  近隣結合法の開発/母系と父系/人間みな兄弟
  第13章 歴誌研究における博物館の役割
  文明の根幹としての博物館/沖縄に国立の自然史博物館を!
  第14章 末来の歴誌
  梅棹忠夫の構想した『人類の末来』/人間が将来、地球環境にもたらす影響/
  高レベル放射性廃棄物の末来
  第15章 言語の歴誌とヒトDNAの歴誌
  言語の歴史に魅せられて/印欧語族の系統関係/人間集団の系統樹/日本語の起源をさぐる

あとがき
図の出典・参考文献・索引

 

 

 

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