2024年4月19日(金)

古希バックパッカー海外放浪記

2016年5月15日

 彼女、ユカは31歳、医療関係に従事、海外旅行大好き。他方で元カレは国内旅行にも尻込みするような内向きタイプ。7年付き合ったが煮え切らない元カレと別れて1年の予定で世界一周旅行に出発。仕事は一旦退職したが医療関係の資格があるので日本に戻れば希望の地域で職を探すのは容易とのこと。

 ユカから思いがけない話を聞いた。「タカさん、実はベトナムで香港人の50歳のおじさんと知り合って5日間一緒に旅行したんです。誤解しないで下さいよ。もちろん“旅行の同行者”という関係ですよ。私、英語が得意じゃないのになぜか彼と話しているとお互いの意思疎通がすごくスムーズなんですよ。すごく不思議なんですけど、私が言いたいことを彼が察して先に言葉にして教えてくれるんですよ」

 「ユカリン、ちょっと待った。僕もそれと同じ経験をホイアンでしたよ。どうしてうら若い女子がオジサンのために貴重な旅の時間を一緒に過ごしてくれるのか不思議だったけどね。どうも価値観とか感性が一致する相手とは最小限の言葉で意思疎通が可能なんだろうね」

 「その通りなんですよ。それに価値観や感性を共有する相手といると幸せを感じるんですよ。自分をこんなに深く理解してくれる人間がいるって。香港のおじさんと別れてから心の中がぽっかりと穴が開いてしまったような感じになって、なにもする気が無くなってしまって。世界旅行を止めて日本に戻ろうかと迷っていました」

 「ユカリン、実は僕もいい年をしてかなり精神的に落ち込んだよ。それである友人に胸の内をメールしたらホイアンで出会った彼女のことを『神様がくれたご褒美』と言ってくれたんだよ。つまり広い世界のなかでそんな人に会えることは奇跡だ。だから神様にその偶然の出会いを感謝すべきだって。失ってしまったことを悲しむのではなくて、逆に奇跡の出会いに感謝すれば気持ちも前向きになれるんじゃないかな。

 僕の兄もメールを送ってきてホイアンの彼女と出会ったことを『天女降臨』と称して、これは神が遣わした天女だと喝破したんだ。だから未練たらしく想いを引きずってはいけないと諭したんだ」

 「タカさん、それすごく納得です。『神様のご褒美』『天女降臨』か。いい言葉ですね。私も前を向いて世界一周続けられそうです」。それから予想通りユカリンとの会話が面白くて延々と深更まで。それでも話が終わらなくて翌日私が早起きすると彼女も無理して起きてきて村上春樹の≪ノルウェイの森≫をどう読むかの続きを話しながら朝食をした。

 これもまた『神様がくれたご褒美』の一つに違いない。

 ⇒第13回に続く

  
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