2024年4月20日(土)

風の谷幼稚園 3歳から心を育てる

2009年11月12日

大人の甘さが、子どもの成長を潰してしまうと語る、天野優子園長

 「子どもたちが『失敗した』『上手くいかなかった』と思っているのに、大人たちは『いいのよ。失敗したっていいのよ』という慰め方をよくしますが、これは、子どもたちの『上手くいかなかった、困ったな、イヤだな』という気持ちを慰めることにはなっていないのです」(天野園長)

 子どもたちは、誰よりも自分が「うまくいかなかった」ということを感じている。大人が安易な慰めをしてしまうと、かえってみじめな思いをさせてしまうこともある。あるいは「こんなもんでいいんだ」と値踏みをして、向上心や目標達成意欲が育たないこともある。つまり、せっかく子どもたちが「悔しい、できるようになりたい」という思いをバネに成長しようとしている機会を、大人の「甘さ」が潰しかねないのである。

 この認識のもと、風の谷幼稚園の先生たちは「やり直し」を指導する。しかし、ただ「やり直す」ということではない。

 「『やり直せばいいよ』と言っても、どこがどうダメだったのかを分からないままやり直しをさせたのでは、同じ失敗を繰り返すことになります。すると『もういやだ、やりたくない』と言う気持ちになるわけです。そして、上手くいかなかったらどうしようという心配ばかりが先に立つようになってしまうのです」(天野園長)

どうしたら箱が作れるか、真剣に考える子どもたち。先生のサポートや仲間との協力によって、「失敗を恐れず、諦めない心」が育つ

 うまくいかなかったとき、「どこがどうダメだったのか?」「どうすればうまくいくのか」を子どもたちに考えさせる。事実を直視する目とそれへの対応策を考えられるよう先生はサポートする。その結果、子どもたちはそれぞれの胸の内に「こういうときは、こうすればいいのか」という自分が努力すべき方向を見出す。

 たとえば冒頭の箱作りの場面では、子どもたちは最初に底板と枠の一面をつなげようとして釘を打ち始めてしまうが、これではうまくいかない。そこで先生はまず枠からつくりはじめるときれいにできることを教える。これでもうまくいかない子どもたちは、さらに釘を抜いてやり直す。それまでにも釘を抜いたり打ったりを繰り返しているので、木片は釘の穴だらけだ。しかし、年少、年中クラスで積み上げてきた経験と努力すべき方向を見出した子どもの心は折れることがない。

 ちなみに、このプロセスはマンツーマンで行われ、型押しの一斉指導ではない。なぜなら、うまくいかない原因は個人の能力差も関係してくるため、子どもに応じたきめ細かい指導が必要と考えているからだ。その結果、うまくいくこともあれば、またうまくいかないこともある。しかし、先生や仲間に支えられながらさらに再挑戦を繰り返す。釘を抜けば何度でもやり直せる木工作はこのプロセスを体感するには絶好の教材なのである。

 「幼児期に絶対に必要なのは失敗を恐れない子どもに育てることです。失敗を恐れないというのは、問題は解決できるであろうと思えるからなのです。そう思えるだけの経験をさせておいてやる事が何よりも子どもを強くするのです。親や教師は『この子は将来1人で生きていくのだから』という意識を持って子どもを育てることが大切です。このように思うだけでも子どもへの対応はかなり違ってきます」(天野園長)


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