母子手帳が世界を変える

2016年3月7日

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萩原明子 (はぎわら・あきこ)

JICA国際協力専門員

JICA国際協力専門員(保健)。お茶の水女子大学文教育学部卒業。同校修士課程修了後、フルブライト奨学生とし て渡米。オハイオ州立大学博士課程でPh.D. (ヘルスプロモーション・健康教育)を取得。JICAスリランカ「ペラデニア大学歯学教育プロジェクト」、ヨルダン「家族計画・WIDプロジェクト・ フェーズ2」等の長期専門家を経て、2005年8月~2009年6月、パレスチナ「母子保健に焦点を当てたリプロダクティブヘルス向上プロジェクト」の チーフアドバイザーを務める。2007年JICA客員専門員、2008年より現職。

パレスチナ人の親子と接する筆者(撮影:今村健志朗)

 シリアからヨーロッパに避難したパレスチナ難民の母親が幼子とともに小さなカバンの中に持参した母子手帳。この記事をインターネットで目にした私たちは、母子手帳のもつ無限の可能性に息をのんだ。パレスチナ難民が持参した母子手帳は、私たちJICA(国際協力機構)がパレスチナ自治区保健庁や国連機関であるUNRWA(国連パレスチナ難民救済事業機関)やUNICEF(国連児童基金)、現地NGOなどと協力して作成した世界で始めてのオリジナル、アラビア語母子健康手帳だった。現地では、「生命(いのち)のパスポート」と呼ばれている。母子手帳に込められた子どもの健やかな成長と未来への希望は、世界共通だ。母親は、避難先でも、予防接種や乳児健診を受けることができるよう、子どもの健やかな成長を願い母子手帳を持参したことだろう。手帳を持っていることで、子どもへの支援が優先的に受けられると考えたのかもしれない。

 「子どもたちの世代には、平和で安定した社会を形成して欲しい」

 「そのためには、子どもたち一人一人の生命を大切に守りたい」

 パレスチナ人は、そう願う。その背景には、深刻な人道上の危機が横たわっていた。

「生命(いのち)のパスポート」と呼ばれる
パレスチナ母子手帳

 「我々は一致協力してすべて母子の健康を人権として確実に守ろう」。パレスチナ母子手帳の裏表紙にはこんなメッセージが大きく掲げられている。

 紛争と貧困により女性と子どもが深刻な被害を受けているパレスチナでは、母子手帳が「生命(いのち)のパスポート」としての役割を担っている。

 内閣府の政府広報室による海外向けパレスチナ母子手帳CM
「Fortifying Parent-and-Child Healthcare in Palestine」(萩原明子:母子手帳篇)

 イスラエルの占領下にあるパレスチナでは、分離壁、検問・道路封鎖、外出禁止令などで経済活動や日々の移動も制約されていた。人々の暮らしにさまざまな困難が生じ、その影響は母子保健にも及んでいた。分離壁や検問所の封鎖で、 かかりつけの医療機関に通えなくなり、別の医療機関で改めて初診となる事例が頻発していた。検査の重複や、受診の遅れは、危険な兆候の早期発見や早期治療を妨げ、すでに逼迫している医療財政をさらに圧迫していた。また、パレスチナには、公立医療機関のほか、UNRWA、NGO、民間の医療施設があるが、健診項目や記録方法も統一されていないため、母子が継続したサービスを受けにくい状況だった。さらに妊娠出産や子どもの健康管理のリスクに対する人々の意識が低いこともあり、産後健診・乳幼児健診の利用率は低迷していた。

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