2024年4月19日(金)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2016年2月23日

 最大の問題は中国が乗ってくるかどうかということだ。中国には鍵となる役割を与えなければならない。中国には新政府の有り様につき最大の発言権を認めなければならない。またこの方法はあくまで例外であり国際政治の前例としないことを明確にしなければならない。

 少なくともこのような方法を検討することは、長い間欠如していた北朝鮮に関する地域協力を強化することになる。うまく行けば秘密裡の脅威だけで金正恩を変えることができるかもしれない。そうならなくても、金正恩の崩壊を早めることになるかもしれない。

出 典:David A. Welch‘Bringing North Korea Into Line’(Diplomat, January 17, 2016)
http://thediplomat.com/2016/01/bringing-north-korea-into-line/

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 評価の高い国際政治の教科書をハーバード大学のナイ教授と共同執筆する学者による、大胆な北朝鮮非核化提案です。基本的には、エンゲージ論と武力行使によらないレジーム・チェンジ論である。多くの疑問や問題もありますが、知的作業としては極めて興味深いものです。同氏が言う基本的な認識はよく理解できます。一つは、今回の実験に対する国際社会の反応は今まで通りのものとなっているが、問題解決のためにはこれまでとは全く違った方法が必要である、二つ目は、金正恩と包括的解決につき秘密裡の交渉をして基本的な選択を迫ることが必要である、三つ目は北朝鮮の国内社会の変化を促し利用する、四つ目は、北朝鮮に関する地域協力は長く欠如してきたこと等の点です。

中国抜きにして朝鮮半島問題は語れない

 しかし、やはり制裁は必要でしょう。1月6日の核実験の後、国連安保理では米国の主導の下に議論が行われていると言われますが、おそらく中国は慎重姿勢を崩していないものと思われます。ウェルチ教授は、対北経済制裁は「すでにほぼ全面的な」措置が行われているので追加的な痛痒はないと述べていますが、措置の拡大や厳格化について、やるべき点はまだまだあります。日本などは安保理措置に加え独自の措置として全面的な貿易禁止等をしていますが、一番の問題は中国です。北朝鮮の貿易の約9割が対中国貿易で、それは増大していて、大きな抜け穴になっています。中国の安保理決議履行にも問題があると言われます。中国に奢侈、軍事物資の規制を超えて貿易、金融規制を強化し、拡大させることが重要です。北朝鮮にとっては最も痛いことでしょう。他方、人道的取引や援助は認めるべきだと思います。

 ウェルチは、自分の提案について最大の問題は中国が乗ってくるかどうかだと述べ、中国には北朝鮮の新政府の有り様について最大の発言権を認めなければならない、ともいいます。そこまで中国に配慮するかとも思いますが、現実問題としては中国を抜きにして朝鮮半島の将来は議論できません。中国と突っ込んだ議論が必要です。イランの場合には「中国」のような存在はなく、他方で、北朝鮮の場合は「イスラエル」もいないし、「イランの国民」もいないので、北朝鮮の核問題は一層難しくなっています。それに地域関係国の考えもあります。米国としても地域関係国の協力なしに、一国でやるつもりはないでしょう。

  
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