海野素央のアイ・ラブ・USA

2016年3月1日

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海野素央 (うんの・もとお)

明治大学教授、心理学博士

明治大学政治経済学部教授。心理学博士。アメリカン大学(ワシントンDC)異文化マネジメント客員研究員(08~10年、12~13年)。専門は異文化間コミュニケーション論、異文化マネジメント論。08年及び12年の米大統領選挙においてオバマ陣営にボランティアの草の根運動員として参加。16年米大統領選挙ではクリントン陣営に入る。著書に「オバマ再選の内幕―オバマ陣営を支えた日本人が語る選挙戦略」(同友館)など多数。

トランプ候補は本選で
激戦州ネバダで勝てるのか

 トランプ候補は「国境の壁」を持論としているのにもかかわらず、ネバダ州共和党党員集会でヒスパニック系(中南米系)の票を他の候補よりも多く獲得しました。当然ですが、ヒスパニック系の共和党支持者の中には、連邦政府に対して怒っている者がいます。保守的なヒスパニック系の共和党支持者も存在するでしょう。さらに、経済重視のヒスパニック系は、トランプ候補に雇用の創出を期待して投票したかもしれません。不法移民に不満のある合法的なヒスパニック系は、同候補を支持したと窺えます。

 トランプ候補は、ネバダ州共和党党員集会における勝利演説の中で、ヒスパニック票を46%も獲得したと豪語しました。しかし、この46%という数字が過大評価され、独り歩きしているように筆者には思えてならないのです。

 実際、トランプ候補のこの発言に対してネバダ大学のデイビッド・ダモア准教授は、意義を唱えています。ネバダ州におけるヒスパニック系は民主党支持者が55%、無党派が29%、共和党支持者が16%です。ダモア准教授は、トランプ候補のヒスパニック系の獲得を44%としたうえで、同候補が得たのは全体の7.04%(44%×16%×100)だと結論づけています。言い換えれば、92.96%がトランプ候補を支持していないのです。要するに、トランプ候補が指名を獲得し本選に進んだとしても、激戦州ネバダにおいてヒスパニック票で民主党候補を破るのはかなり困難だということです。

 16年2月25日に発表された米ワシントン・ポスト紙とユニビジョン・ニュースによるヒスパニック系を対象とした共同世論調査をみても、トランプ候補に対する同系の非好感度は、なんと80%にも上っています。クリントン候補との仮想対決では、ヒスパニック系の73%がクリントン候補を、16%がトランプ候補を支持しているという結果になっています。以上から、トランプ候補が主張する46%の数字は、有権者の注意を引くための「誇大広告」のようにも見えてしまうのです。

テレビ向けに設けられた「名誉あるゲスト席」

 さて、共和党は08年及び12年の大統領選挙において、「白人男性の党」であるというイメージを克服できず、マイノリティ(少数派)を重視した選挙戦略を展開したオバマ大統領に敗れました。共和党が「白人男性の党」というイメージを払拭しようとしているエピソードを紹介しましょう。

 08年共和党全国大会において、筆者が会場の最上段の席で演説を聞いていると、大会のスタッフらしい女性が近づいてきて、「名誉あるゲスト」の席に移動して欲しいと言ってきたのです。そこで、エレベーターを使って、最上階から1階にあるセクション112の5列目の4番という席に移ったのです。驚いたことに、「名誉あるゲスト」席とは、テレビカメラが撮る位置に非白人を集めて、共和党がアメリカ社会における多様性を反映しているように見せかけるための席だったのです。

 仮にトランプ候補が指名を獲得し、副大統領候補に白人男性を選んだ場合、従来通りの共和党のイメージを強化することになり、08年及び12年米大統領選挙の教訓がまったく活かされません。共和党幹部が、「白人男性の党」のイメージを弱めるには、サウスカロライナ州予備選挙においてマルコ・ルビオ上院議員(キューバ系)、ニッキー・ヘイリー知事(インド系)、ティム・スコット上院議員(アフリカ系)が同じ舞台に立って一緒に有権者に訴えたように、本選でも3人が協働して共和党の顔になることが不可欠です。それは、民主党のお株を奪う文化的多様性を活かした選挙戦略になるからです。

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