WEDGE REPORT

“生きた耳と顎の骨のプリントに成功” 臓器移植不要な近未来到来か

土方細秩子 (ひじかた・さちこ)  ジャーナリスト

ボストン大学コミュニケーション学部修士課程終了、パリ、ロサンゼルスでテレビ番組製作に携わり、1993年より米国でフリーランスのジャーナリスト活動を行う。

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時間軸の長い視点で深く掘り下げて、世界の本質に迫る「WEDGE REPORT」。「現象の羅列」や「安易なランキング」ではなく、個別現象の根底にある流れとは何か、問題の根本はどこにあるのかを読み解きます。

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 バイオプリンターはインテグレーテッド・ティシュー・オーガン・プリンター(ITOP)と呼ばれるもので、「理論的には人間のどんな器官でも再現できる」。

 アタラ教授のチームは2006年に世界初の人工膀胱を作り、実際に人に移植することに成功した。以来軍の再生医療研究所と協力して「自分の細胞を使った人工器官の作成と移植」を目標としている。傷痍軍人、特に腕や身体の一部を失った人々に新しい器官を与えるのが目的だが、もちろん研究が進めば一般医療への適用も視野に入る。

 作り出した器官の中にジェルによる「通路」を作り、24時間後に血管が育つことで器官全体に栄養を行き渡らせる、という課題はクリアしたが、もうひとつの問題は「プリントアウトした細胞を正しいタイミングで固形化する」技術だ。プリンターのノズルから放出される細胞溶液は液体だが、培養器の中で形成された瞬間に固体になる必要がある。これについては生きた細胞とポリマー、栄養素を混合したものを噴射することで解決した。教授はこれを「バイオインク」と呼ぶ。

技術確立で臓器移植不要に

 現在このチームは肝臓、肺の一部、腎臓などのプリントアウト研究を行っている。実際に我々が自分の細胞から新しい内臓や器官を作り出し、それを自分の身体に移植できるようになるにはまだ数年が必要だという。

 しかしこの技術が確立されれば、現在臓器移植に頼らざるを得ない人々の多くが助かることになる。自分の細胞を使った臓器形成だけに、拒絶反応を防ぐ薬を一生飲み続ける必要もない。

 このチームが作り出した人間の耳はマウスの身体に移植され、2ヶ月後も「生存」が確認されている。つまり、移植後も人工器官は壊死することなく人間の身体の一部となる可能性が極めて高い。

 チームはこのほか人間の筋肉の一部のプリントアウトにも成功しており、生体3Dプリントの分野では他の研究機関より一歩先んじた形だ。

 3Dプリンターで自分のレプリカが作れる、というSF映画のような世界は、そう遠い未来ではないのかもしれない。

  
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土方細秩子(ひじかた・さちこ)

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ボストン大学コミュニケーション学部修士課程終了、パリ、ロサンゼルスでテレビ番組製作に携わり、1993年より米国でフリーランスのジャーナリスト活動を行う。

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