2024年4月19日(金)

ACADEMIC ANIMAL 知的探求者たち

2009年11月23日

 つまり、この宇宙において、鉄というのは明らかに特別な存在なんだ。どこへ行くのかというと、鉄へ行くというのが答。だから鉄をめぐる研究をしたいと思ったわけ。

●すいません。宇宙が鉄になるというのはほんとなんですか?

土に製鉄の方法で火を入れると、土中の鉄分が塊となって写真のように現れる。地球は鉄の惑星ともいうことができる。

——太陽を含む恒星の進化論が進歩してきて、星の内部で元素が作られるという話から、いろんな人が言い出すようになったこと。ビッグバンのときには、まず水素ができて、水素がかたまって星をつくって、内部で重たい元素ができて、星が爆発してまたガスが集まって星になって……が繰り返される。理由は知らないが、重たい元素のうち、鉄が一番安定しているってことがわかったんだ。星の内部で元素が作られるというのは、高校とか大学1年の授業で習う話だよ。俺がこのことを意識したのは、20年ぐらい前。大学院を出るかどうかの頃だったかな。

●宇宙が鉄になるということを知ったときは、「どこへ」という大問題を先に解かれて悔しくなかったですか?

——俺の場合、気になる問題はいつもWhyなんだよ。当時わかっていたのはHowの部分だけだから。そこから鉄に関するWhyに答えようとしていまに至っているのが俺の研究生活。宇宙が鉄になることはわかったとして、俺はどうして宇宙が鉄になるのかを問いたい。すべてのWhyに答えたい。この宇宙の内部にいる人間にとっては、宇宙に関するWhyは解けないかもしれないとも思っているけども、この宇宙で鉄が大事だっていうのはうっすらわかるじゃない? だから、特別な存在である鉄を中心に、生態系とか惑星とかを考え直してみようと思ったんだ。

●しかし、何かで読んだんですが、科学は「いかに?」の問いに答えるものであって、「どうして?」という問いには答えられないんですよね? 

——なんで? 俺はそうは思わない。たしかに100年前に夏目漱石が『文学評論』でこう言ってる。科学はHowを問うものであって、Whyを問うものではない、って。でも、Whyを問うことだってできるはずだって、思う。

●HowとWhyの話は、先生が昔生物学を苦手にしていたことと、ちょっとつながりますでしょうか。

——中学や高校で習う段階の生物学っていうのは、暗記ものに近い。博物学に近い部分があると思います。ここにはこんな生き物がいますよ、あそこにはこんな 生き物がいますよ…というのを積み重ねていくもの。そういうアプローチが、若いときの自分にとっては、あまりおもしろく感じられなかったんだ。

 俺が欲したのはあくまでも体系。システム。たった一つの言葉でこの世の中すべてを説明する理論が欲しい。いまでいえば「セオリー・オブ・エブリシング」。科学者というのはこれを目指すものなんだ。ある人は素粒子から、ある人は宇宙論から。この宇宙がいかに生まれ、いかに発展し、いかに終わるか。それが言えれば、その中に含まれている生命のことも言える。この点に関して俺の問題意識は一つで、この宇宙には生命なんてなくたっていい、宇宙は物理・化学だけで粛々淡々と進行すればいい、というもの。生命がいるからややこしくなるけど、いなくたって誰も困らない。


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