今月の旅指南

2009年11月30日

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辻 一子 (つじ・いちこ)

岡山県生まれ。フリーライター。旅行会社のPR誌の編集者を経て、1998年からフリーランスに。旅の雑誌を中心に活躍。

 天竜川の上流、赤石山脈の最南端に位置する秋葉山〔あきはさん〕。標高866メートルの山頂に佇むのが、火防〔ひぶ〕せ(火災防止)の神として名高い「秋葉山本宮秋葉神社」だ。

 「創建は709年と伝えられていますが、秋葉信仰が最も栄えたのは江戸時代中期です。全国各地に『秋葉講』が結成され、多くの参詣者がこの地を目指しました。秋葉街道沿いに今も残る常夜灯が当時の繁栄を物語っています」

 と語るのは、宮司の河村基夫さん。電気街として名高い東京の「秋葉原」も、火事を恐れた江戸の人々が「秋葉の神様」を勧請したことからその名がついたとか。幕末にはこうした分社が全国に2万7000カ所もあったという。

 「秋葉の火まつり」は、秋葉神社の祭事のなかで最も盛大なものだ。祭りは、12月15日、16日の2日間にわたって繰り広げられるが、クライマックスは16日の夜半に行われる「防火祭〔ひぶせのまつり〕」。凍てつくような寒さのなか、境内で手筒花火の奉納があり、その後、一子相伝の秘儀を受け継ぐ3人の神職によって、「弓の舞」「剣の舞」「火の舞」の神事が厳かに営まれる。

大松明を振りかざす、勇壮な火の舞

 「弓の舞」では、東西南北と中央天井の五方に矢を射って、1年の罪穢〔つみけが〕れや厄災を祓い落とす。この矢の当たり方によって、来る年の豊年吉凶を占うともいわれる。続いて行われる「剣の舞」は、剣で罪や穢れを祓い切る神事だ。

 最後の「火の舞」では、最も強い“祓い”である火の霊力によって罪穢れや厄災を焼き祓う。神職が大松明〔おおたいまつ〕を振りかざしながら「火の舞」を舞うと、赤々と燃える炎が暗闇に大きな弧を描く。飛び散る火の粉、舞い上がる黒煙……。神秘的であると同時に、火への恐れを感じる瞬間だ。

 「火は、私たちの生活にとってなくてはならない大切なものです。今日の近代文明もこの神の霊威によって築かれたといってもいいでしょう。しかし、これを誤って使うと大きな災禍がもたらされます。秋葉の火まつりをご覧いただいて、火への感謝や畏敬の念を思い出していただけると嬉しいですね」

 
 
 
 

秋葉の火まつり
静岡県浜松市・秋葉神社(遠州鉄道西鹿島駅からバス。夜はバスが運行しないので要注意)
〈問〉秋葉山本宮秋葉神社上社 053(985)0111
http://www.akihasanhongu.jp/
http://haruno-kanko.net/

 ◆「ひととき」2009年12月号より


 

 


 

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