WEDGE REPORT

地方をダメにする ふるさと納税の不都合な真実
チキンレースと化す自治体間の高額返礼品競争

木下斉 (きのした ひとし)  一般社団法人エリア・イノベーション・アライアンス代表理事

1982年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業、一橋大学大学院商学研究科修士課程修了。経営を軸に置いた中心市街地活性化が専門。内閣官房地域活性化伝道師等も務める。近書に『稼ぐまちが地方を変える』(NHK出版新書)。

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ビジネスの現場で日々発生しているファクトを、時間軸の長い視点で深く掘り下げて、日本の本質に迫る「WEDGE REPORT」。「現象の羅列」や「安易なランキング」ではなく、個別現象の根底にある流れとは何か、問題の根本はどこにあるのかを読み解きます。

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ふるさと納税を見直した新潟県柏崎市の女性職員(JIJI)

 さらにその先には、地元産業がますます自治体依存を深めていくという大きな問題がある。地元企業・生産者は、「ふるさと納税はまとまって商品を買い取ってもらえるおいしいビジネスだ」と盛り上がっている。

 中には、通常の市場価格よりも高い価格で地元農作物を購入する自治体がある。それが「農業者所得の改善になる」と、とんでもない発言をする農業団体関係者も存在する。これは、税金を使った価格釣り上げによる、一部生産者への不当な贈与とも言える話だ。

 また、ふるさと納税の売り上げを優先するあまり、従来の卸先との取引を削減し、返礼品に充てる生産者まで出てきている。正常な取引が減少し、税金による買い取りのほうが優先されるのは決して健全ではない。

 しかし、自治体が累計数億円の商品を買い取るふるさと納税“市場”は、地方の中小零細企業・生産者にとっては小さくなく、魅力的に映る。市場競争よりもてっとり早く今期売上を上げられるこの仕組みが横行すれば、市場で苦労して営業する真っ当な生産者ほど馬鹿をみることになる。

 納税金額は青天井ではなく、年によって大きく振れる。その増減が地元産業に与える影響を最小限に抑えるためにも、ふるさと納税取引額の変動を一定の範囲に収めるルールを設けるなど、事前の対策がなされる必要がある。

“シャブ漬け”になる地方の生産者と自治体

 一方、自治体も“シャブ漬け”のようになっている。そもそも地元から得られる税収が少ない地方の自治体にとって、ふるさと納税による税収増は魅力的だ。通常の税収を超えるふるさと納税金額が集まる自治体さえ出てきており、後に続けと躍起になっている。

 しかし問題は、ふるさと納税を獲得した後だ。多くの場合、まずは返礼品に向けた予算を組み立て、さらに残った獲得税収をどう使うか、という話になっている。本来、都市への人口の流出などで減少した歳入を補うために、ふるさと納税が導入されたはずだった。ところが、実際にはふるさと納税による新たな税収を頼りに、問題の先送り、もしくは新たな事業の立ち上げが先行し、財政健全化には程遠い。

 そもそも地方財政の問題は「あるものは全て使ってしまう」ことにある。これまで借金してでも毎年予算を使いきっていたから、税収が増加すれば、その分、予算も増加させてしまう。予算増で地方が再生するのなら、過去繰り返し実施された国による交付金・補助金事業で、はるか昔に再生していただろう。地方のマインドが変わらない限り、ふるさと納税は地方財政に歪みをもたらすだけになってしまう。

 何より怖いのは、この仕組みが回っているうちは、ふるさと納税をする納税者、受け取る地方自治体、買い取ってもらう地方生産者というふるさと納税に直接的に関係する3者の誰もが損をしない構造になっていることだ。商品購入にお金が回り、地方の財源も増加する。それがさも地方活性化になっているかのように見える。

 しかし、これは、一部の地方産品を税金で買い取る一種の「公共事業」に過ぎない。その異常性に気づかないと、地域経済はどんどん自治体買い取りに依存し、自立して正当な対価を得る真っ当な産業が地域から無くなっていってしまう。過去、地方の農林水産業、商工業でもこの手の支援によって衰退した事例は数多あった。

 ではいったい、誰が損、つまり負担をしているのだろうか。それは、ふるさと納税をしていない都市部の人だ。

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木下斉(きのした ひとし)

一般社団法人エリア・イノベーション・アライアンス代表理事

1982年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業、一橋大学大学院商学研究科修士課程修了。経営を軸に置いた中心市街地活性化が専門。内閣官房地域活性化伝道師等も務める。近書に『稼ぐまちが地方を変える』(NHK出版新書)。

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