ベルギーテロは予想されていた
当局の失態か?

欧州にテロ続発の恐怖 深く広く潜伏する休眠細胞


佐々木伸 (ささき・しん)  星槎大学客員教授

共同通信社客員論説委員。ベイルートやカイロ支局長を経て外信部副部長、ニュースセンター長、編集局長などを歴任。

WEDGE REPORT

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ベルギーの首都ブリュッセルの国際空港と地下鉄で起きた同時テロは欧州に深く広く根を張る過激派組織「イスラム国」(IS)のテロ・ネットワークの一端を浮き彫りにした。ベルギーだけではなく、各国の治安機関はさらなるテロに備えて厳戒態勢を敷いているが、テロ続発の恐怖が欧州全体を覆っている。

テロの犠牲者を悼んでブリュセル市内の広場に集まった人々(Getty Images)

90人が指令待つ

 3月22日に起きたテロではこれまでに、国際空港で11人、市内の地下鉄マルベーク駅で20人が死亡、250人が重軽傷を負った。日本の生命保険協会からブリュッセルの国際保険協会連盟に出向中だった邦人男性2人も駅でのテロに巻き込まれ、1人は重体だ。

 しかし、今回のテロは全く寝耳に水の事件ではなかった。ベルギーのレインデルス外相は先週、3月18日に逮捕したパリの同時多発テロ(昨年11月)の生き残り犯サラ・アブデスラム容疑者が「新たなテロを計画していた」事実を明らかにし、テロが近く起こりうることを示唆していた。

 フランスの情報機関「国内治安総局」の元局長はこの数週間、治安当局の情報として、欧州でテロが起きるのは「時間の問題」と警告。テロの直前にも「テロリストがすでに準備を整えていると思われることから、より深刻なテロが発生する恐れがある」と述べ、治安関係者の間でテロが切迫しているとの認識が広まっていることを仄めかしていた。

 それにもかかわらずテロを食い止めることができなかったベルギーの治安当局に対して、失態だと指摘する声も強い。特に空港で自爆した、イブラヒム・バクラウイ(29)と、地下鉄で自爆した弟のハリド・バクラウイ(27)は、アブデスラム容疑者とつながりがあることが分かり、15日からその行方を追っていたにもかかわらず、公開手配をせず、結果として空港でのテロを容易にしたのではないか、との批判が強い。

 一方で一段と鮮明になりつつあるのが、欧州、特にベルギーの移民地区モレンベークを拠点とするテロ・ネットワークの広がりだ。モレンベークはパリの同時多発テロの首謀者アブデルハミド・アバウド(死亡)ら実行犯3人の出身地。ここでパリ事件の爆弾や銃・弾薬などが調達・準備されたが、これまでの数々のテロ事件でも武器の調達をした場所として知られている。

 アバウドはパリ事件の前にいとこに対して「90人の工作員が(欧州で)待機中だ」と自慢しており、モレンベークを中心に潜伏し、作戦の指示を待っているテロリストが多く存在している恐れが強まっている。欧州からは約5000人がシリアに入ってISに加わったと見られ、その一部は欧州に再び舞い戻っている。

 ベルギーは人口1100万人の小国だが、これまでに約500人がシリアに向かった。人口比のIS加入率では、欧州で最大だ。すでに約120人が治安機関のチェックを受けることなくベルギーに帰国したとされており、これら帰国組がテロ・ネットワークの一翼を担っているのではないかと見られている。

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佐々木伸(ささき・しん)

星槎大学客員教授

共同通信社客員論説委員。ベイルートやカイロ支局長を経て外信部副部長、ニュースセンター長、編集局長などを歴任。

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