欧州テロリスト 武器入手ルートを追う

バルカン半島で闇取引されるAK-47と放射性物質


木村正人 (きむら・まさと)  ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト。元産経新聞ロンドン支局長。米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員、慶應義塾大学法科大学院非常勤講師などを歴任。2012年独立。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)

WEDGE REPORT

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 3月22日、ベルギーのブリュッセル近郊の空港と、地下鉄の駅で爆発テロが発生。さっそくイスラム国(IS)が犯行声明を出した。欧州ではテロが頻発しているが、なぜ欧州のテロリストは容易に武器を手にすることができるのか。欧州に流れる武器の供給地への現地ルポを通じて、その答えを明らかにする――。

 2015年1月の仏風刺週刊紙シャルリエブド襲撃や死者130人を出した11月のパリ同時多発テロでも旧ソ連製の自動小銃AK-47(カラシニコフ)が使われた。

 市民生活の陰で過激化したテロリストは即席爆弾だけでなく、闇市場を通じ自動小銃やロケットランチャーまで入手している。自爆テロにとどまらず、首都機能をマヒさせる大規模テロを行う能力を獲得した。脅威はしかし、それだけではない。ウクライナ危機でロシアと欧米の関係が悪化する中、旧ソ連諸国では過激派組織「イスラム国(IS)」に放射性物質を売り込もうとする動きまで出ているのだ。

「ジハーディストの巣窟」ベルギーのモレンベーク

ベルギーのブリュッセルにあるモレンベーク地区、ムスリム女性が目立つ

 パリ同時多発テロで「ジハーディストの巣窟」「テロリストの温床」という物騒な呼び名がすっかり定着したベルギーのブリュッセル首都圏にあるモレンベーク。面積5・89平方キロメートル。人口は15年1月時点で9万5576人というこぢんまりした自治体だ。モロッコやトルコ系の移民が多く暮らし、22のモスク(イスラム教の礼拝所)がある。イスラム教にもとづき解体・処理された食肉を専門に扱う店やケバブ店が並び、スカーフで髪を覆うイスラム女性があふれる。

 パリ同時多発テロの首謀者でIS戦士アブデルハミド・アバウド(28)、バーやレストランを銃撃したブラヒム・アブデスラム(31)=いずれも死亡=、サラ・アブデスラム(26)の3容疑者はいずれもモレンベーク出身。マドリッド列車爆破(04年)、ブリュッセルでのユダヤ博物館銃撃(14年)、アムステルダム発パリ行き国際列車での銃乱射事件(15年)の容疑者も一時、モレンベークに住んでいたことから、「テロリストの棲家」「武器の調達場所」と糾弾された。

パリ同時多発テロの首謀者であるアブデスラム兄弟が経営していたカフェ

 アブデスラム兄弟がモレンベークで経営していたカフェは薬物を扱っていたとしてテロの11日前に区役所から閉店を命じられた。カフェでブラヒム容疑者とよくカード遊びをした友人は「特に変わった様子には気づかなかった」という。しかし別の友人は「ブラヒムから旧ソ連製の自動小銃AK-47を隠すよう頼まれた」と地元TV局に証言している。近所の人の話では、アバウド容疑者やアブデスラム兄弟がモスクに通う姿を見かけたことはなく、3人は熱心なイスラム教徒ではない。定職につかずフラフラして「半グレ」化した末、過激思想に染まったテロリストに分類できる。

 アバウド容疑者はISのオンライン機関誌「DABIQ(ダビク)」で、「欧州に潜入するのに数カ月かかり、最終的にベルギーに着いた。そこで武器を手に入れ、隠れ家でテロ作戦を練った」と証言している。ブラヒム容疑者のカフェが隠れ家や武器保管場所として使われたのか。しかし、寂れたカフェやバーの裏口を開けると武器の密売所というのはフィクションの世界に過ぎない。ムスリム人口の多いモレンベークだから犯罪組織の闇市場にアクセスするのは簡単というのも悪質なつくり話だ。

 ただ、6つある警察の統率が取れず、19の自治体に分かれるブリュッセル都市圏では有効な過激化対策や移民政策が打てず、闇市場の取り締まりも甘くなる。モレンベークの女性区長は記者会見で「アブデスラム兄弟の名前は過激化している恐れがある約100人のリストの中にあった」と告白した。分かっていてもカネも人手も足りず、野放しになってしまったのだ。

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木村正人(きむら・まさと)

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在ロンドン国際ジャーナリスト。元産経新聞ロンドン支局長。米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員、慶應義塾大学法科大学院非常勤講師などを歴任。2012年独立。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)

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