BBC News

2016年3月24日

ジョナサン・マーカス防衛・外交担当編集委員

私たちは政策を国内と国外とに分けて、二元的に考えがちだ。

しかしブリュッセルの悲劇があらためて示すように、国内と国外はそうそう簡単に分けられるものではない。

むしろ根本的な意味で言えば、バラバラになりつつある中東の問題は、たちまち欧州の問題にもなりつつある。

テロだろうが、押し寄せる移民の波だろうが、リビアの未来やイランの核政策だろうが、トルコとの厄介な関係性だろうが、中東圏全体は今や日常的に欧州の意識に入り込んでくる。

ある意味でこれは、長らく普通のことだった歴史の状態に回帰しているのだとも言える。

植民地時代を思い返すといい。フランス、イタリア、イギリスは中東において膨大な地域を支配していた。

第1次世界大戦が終わりオスマントルコ帝国が崩壊すると、その支配下にあった地域も英仏両政府が管理するところとなり、シリアとパレスチナに英仏の委任統治領が作られた。

それどころか、いま激しく脅かされている中東地域の地図の大部分は、第1次世界大戦後に欧州列強が区画したものだ。

欧州の玄関口がテロの脅威に揺さぶられたことは過去にもある。

1950年代後半にはアルジェリア独立戦争の中で、フランスの標的がテロ攻撃を受けた。

そしてそれから一世代めぐった1990年代にも、アルジェリア過激派はフランスを攻撃した。自分たちの戦いに世間の注目を集めるため。そしてかつての宗主国の抑圧に復讐するため。

縮みゆく世界

しかしいま起きていることは、これまでとは根本的に異なるように見える。

ある意味で、今の中東危機は以前より厳しいものだ。

地理的条件はたとえ不変でも、中東から欧州までの距離は実際かなり短くなった。

そして様々な形のグローバリゼーションによって、大勢の目に欧州経済圏はより魅力的に映るようになり、アラブ圏はその欠陥・欠落が浮き彫りになった。

文化のグローバル化によって、地理上の距離は前ほど国際情勢にとって大事な要素ではなくなった。

欧州各国の政府は、まずは安全保障上の危機に対応しようと四苦八苦している。

いわゆる「イスラム国」に参加しようと、欧州から中東へ向かった大勢のことを思い起こすといい。

理由はなんであれ、こうして移動して聖戦主義者になった市民を人口当たり最も多く輩出したのはベルギーだ。

と同時に、たとえばフランスに昔から基盤を築いている北アフリカの移民社会を思い、フランスの都市郊外にはびこる悪名高い無秩序を思うといい。

アイデンティティーの問題、人種差別、現地社会に溶け込めない断絶などが要因となり、聖戦主義のメッセージに感化されやすいマイノリティが、こうした移民コミュニティーの中に相当数生まれてしまうのかもしれない。

社会にしっかりした基盤のない若者の過激化において、刑務所が一因となっているのは証明済みだ。これはどう考えるべきか。

あらためてベルギーでは、孤立と軽犯罪と過激化の関連が明白だ。

これに加えて、中東の危機による広範な影響にどう対処すべきかという問題もある。

ある次元ではこれは安全保障と外交の問題だ。欧米は介入すべきか。すべきだというなら、どのように。何を目的として。

リビアのムアンマル・カダフィ大佐とシリアのバシャル・アサド大統領。この2人の指導者について、判断は異なった。

1人は失脚させられ、もう1人は政権の座に残っている。

そして2人に対する異なる決断が、現在の状況を左右している。

欧州はどういう価値観を抱くのか、欧州連合諸国は全体としてどういう社会を作ろうとしているのか、難民危機はかつてなく深刻な質問を投げかけてくる。

ことの発端は海外だった諸問題が、今では欧州各国の国内政治にも大きな影響を及ぼしているのだ。

スカンジナビア諸国では大衆主義政党が台頭し、フランスでは国民戦線が支持を拡大している。ドイツでも最近の地方選で極右が躍進した。

確かなことは何もない

正直言って、これはまさに地獄のような問題だ。

冷戦時代の政策決定には確かな拠り所があった。冷戦終結においては、その確かな拠り所が勝利したかのように思えた。しかしそれは過ぎた話だ。

あの時、歴史は終わらなかった。

むしろ歴史の揺り戻しが欧州人の尻にかみついた。

欧州各国の政府が今や直面する諸問題は、ルービック・キューブのごとしだ。

立方体をどれだけひねり回そうとも、外交と安全保障と移民と内政とその他もろもろがきれいに揃って整うことなど、決してありえない。

独自に動く要素が多すぎる。

そして簡単な答えはひとつもない。

欧州の人間は、安全でいたいことは分かっている。

しかしこれを具体的にどうやって実現したらいいのか、分かっていない。

プライバシーと治安のバランスはどうすべきなのか。

欧州諸国の社会構成が変化している以上、表現の自由に関する伝統的な考え方も変更するべきなのか。

海外での軍事介入は事態を悪化させるのか。

それとも介入せずに座視すれば、安全を求めて欧州域内へ目指す難民の大量移動を招くだけなのか。

欧州連合の国々は、甚大な危機に直面している。

中東は、地中海を越えてすぐそこだ。その中東は今や、記憶もおぼろな植民地時代にいくらか関係した異国の国々……では済まされない。

欧州にとって中東は今や、「近くの外」と呼ぶべきところなのかもしれない。

(英語記事 The Middle East is now Europe's backyard)

提供元:http://www.bbc.com/japanese/features-and-analysis-35889000

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