チャイナ・ウォッチャーの視点

2016年3月29日

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西本紫乃 (にしもと・しの)

北海道大学大学院公共政策学連携研究部付属公共政策学研究センター研究員

1972年広島県生まれ、広島大学大学院博士後期課程単位満了退学、元外務省専門調査員(在中国日本国大使館)。著書『モノ言う中国人』(集英社新書、2011年)。

 今年の全人代では湖南省の代表団の政治工作報告では、湖南省の代表者から習近平主席に対し、省内の極貧地区の一つである十八洞村の村民の平均収入が、2年で倍以上になったことが報告された。中国の貧しい農村では嫁不足も深刻で、湖南省の代表者と国家主席とのあいだでは、こんなやりとりもあった。

 習近平「去年は何人が嫁を娶れたのか?」

 代表「7人です。中年男性7人が所帯持ちになれました」

 十八洞村は2013年11月に習近平主席が視察に訪れたことを契機に、農産品生産や観光開発など重点的に脱貧困に向けた取り組みが行われた村だ。習近平が視察に訪れたことで村の136戸の生活が劇的に変化した地区で、まさに「習近平さまさま」である。今年2月には村人の習近平に対するあふれんばかりの感謝の気持ちを表現する歌『あなたを何とお呼びすべきか』が湖南省の肝入りで制作されていて、この歌についても全人代で報告された。

 この『あなたを何とお呼びすべきか(不知該怎麼称呼你)』の歌詞には習近平の名前こそ入っていないが、ミュージックビデオ(MV)には習近平主席が十八洞村が訪れた際に村民たちに「貧困地区の支援には地道な取り組みが必要だ」と語りかける場面の映像も付いている。湖南省の地方幹部の習近平個人へのゴマすり感たっぷりのこの歌は、中国国内では概ね不評でネット上では「気味悪い」、「吐き気がする」といった率直な感想があふれている。

習近平個人崇拝ソングの登場

『あなたを何とお呼びすべきか(不知該怎麼称呼你)』MVの豪華な演出(出所:動画サイト芒果TV

 習近平主席への権力集中、専制化が顕著になってくる中で、今年に入ってからバッジだとか歌だとか「まるで文革時代」な個人崇拝の傾向が取りざたされることが多くなった。しかし、習近平個人崇拝ソングは習近平政権一年目の2013年から既に作られている。『習近平のメッセージ(習主席寄語)』と題された曲は、

 「♪能力がある時は小さなことも喜んでやろう。お金に余裕があれば善いことをしよう/権力がある時は実務に尽力しよう。動ける時は少しでも多くのことをしよう」

 と道徳教育のような歌詞で、習近平自らの作詞だとされている。MVは200人の高校生を動員し中国中央電視台が撮影しており、かなりのハイクオリティに仕上がっている。いわば、党のお墨付きの歌だ。

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