2024年4月23日(火)

オトナの教養 週末の一冊

2016年4月10日

 横田さんは1997年に最初の戦場写真がAPやAFPに売れた時、「これほどの幸せの実感はない」と書いた。別の場面では「アドレナリンの魔力」と自嘲し、「だから、この仕事を辞められない」と。

横田 徹 (Toru Yokota) 1971年茨城県生まれ。97年よりフリーの報道カメラマン。世界各地の紛争地を取材し、2010年に中曽根康弘賞・奨励賞受賞。IS(イスラム国)の拠点ラッカ等も取材。

 実は本書は、大胆・的確な戦場リポートであると同時に、自称「落ちこぼれ」の一人の現代男性の波乱に満ちた半生記でもある。

 3歳で父親に去られ、母の再婚相手から(後年の戦場体験に匹敵するほど過酷な)「厳しい」しつけを受けて育ち、様々な職業を遍歴し、運命に導かれるようにタイで報道カメラマンになっていた父親と21年ぶりに再会して……。

 「これまでの人生の集大成です。私にはこれ以上のことはもう書けないでしょうね。去年の10月末に結婚もしましたし」

 「では、戦場にはもう行かない?」

 「わかりません。妻は引き止めませんが、体力的には潮時なのかもしれない」

 現在、唯一の趣味は狩猟。ヒグマの出没する北海道の森で猟銃を抱えエゾシカを追う時のみ、「蓄積したPTSD(心的外傷後ストレス障害)が癒される気がする」という。

 現代日本でもっとも多くの戦死者を見てきた戦場ジャーナリストは、本書刊行と結婚を機に、綱渡りの針路を見直し中の様子だった。

  
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◆Wedge2016年4月号より

 


 


 


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