海野素央のアイ・ラブ・USA

2016年4月9日

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海野素央 (うんの・もとお)

明治大学教授、心理学博士

明治大学政治経済学部教授。心理学博士。アメリカン大学(ワシントンDC)異文化マネジメント客員研究員(08~10年、12~13年)。専門は異文化間コミュニケーション論、異文化マネジメント論。08年及び12年の米大統領選挙においてオバマ陣営にボランティアの草の根運動員として参加。16年米大統領選挙ではクリントン陣営に入る。著書に「オバマ再選の内幕―オバマ陣営を支えた日本人が語る選挙戦略」(同友館)など多数。

 今回のテーマは、「トランプ候補VS.抗議活動家」です。共和党候補指名獲得に必要な1237人の代議員獲得を目指している不動産王ドナルド・トランプ候補は、種々の問題に直面しています。中でも、同党主流派によるトランプ阻止の動き及び抗議活動家による反トランプ運動は、指名獲得並びに集会運営においてトランプ陣営に対する阻害要因になっています。トランプ候補は、中西部ウィスコンシン州予備選挙の最中にテレビインタビューに応じ、人工妊娠中絶を行った女性は何らかの処罰を受けるべきだと問題発言をして、抗議活動家にさらなる攻撃材料を与えてしまったのです。

 本稿では、まずトランプ候補の人工妊娠中絶に関する発言の影響を分析し、次に反トランプ運動を展開する抗議活動家を対象に行ったヒアリング調査について述べます。その上で、トランプ候補が指名獲得ないし独立候補として出馬した場合、どのようなメリットを民主党にもたらすかについて考えてみます。

「愛は憎悪に勝つ」と書いた看板を掲げる抗議活動家(筆者撮影@ベライゾン・センター ワシントン)

ジェンダーの地雷

 これまで女性蔑視を繰り返してきたトランプ候補ですが、今回は人工妊娠中絶を行った女性に対する処罰の必要性について発言しました。この発言は、特定の女性の容姿をあざけったものとは本質的に異なります。ではどのように相違するのかについて説明しましょう。

 前回の米大統領候補であったミット・ロムニー氏は、従業員の避妊薬の保険適用及び女性向けに低価格で医療保険サービスを提供する非営利団体に対する補助金に反対表明をしました。それに関して、当時、ある女性有権者が「ロムニーや共和党の男性は、女性の体の問題に介入しようとしています。私の体のことは私が決めます」と、当時怒りを込めて語っていました。ロムニー氏が、米国人の核となる価値観である個人の選択や自由に介入したと受け止めたからです。

 しかも、ロムニー氏の反対表明は、オバマ大統領にアドバンテージを与えたのです。というのは、2012年米大統領選挙ではオバマ大統領は、女性、アフリカ系、ヒスパニック系、若者及び同性愛者から構成される異文化連合軍の中で、ことに女性票に焦点を当てていたからです。

 人工妊娠中絶と処罰に関するトランプ候補の発言も、個人の選択と自由を侵したものと解釈でき、その影響は大きいと言わざるを得ません。今回の発言で、女性有権者から不人気のトランプ候補は、ジェンダーの溝をさらに拡げてしまったと言えるでしょう。オバマ大統領と同様、ヒラリー・クリントン候補も女性票の獲得に時間とエネルギーを費やしているので、仮に本選が「クリントンVS.トランプ」になった場合、同候補に有利に働くということは間違いありません。結局、ロムニー氏もトランプ候補もジェンダーの地雷を踏みつけてしまったのです。

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