2024年4月24日(水)

ベストセラーで読むアメリカ

2009年12月2日

 Upstairs Mack was on the phone with Mitsubishi’s chief executive, Nobuo Kuroyanagi, and a translator, trying to nail down the letter of intent.
  His assistant interrupted him, whispering, “Tim Geithner is on the phone; he has to talk to you.”
  Cupping the receiver, he said, “Tell him I can’t speak now, I’ll call him back.”
  Five minutes later, Paulson called. “I can’t. I’m on with the Japanese, I’ll call him when I’m off,” he told his assistant.
  Two minutes later Geithner was back on the line. “ He says he has to talk to you and it’s important,” Mack’s assistant reported helplessly. (p482)

 「上の階では、マックが三菱UFJの畔柳信雄CEO、そして通訳と電話で会談中だった。同意書を確たるものにするために。
  しかし、マックのアシスタントが割って入り、ささやいた。『(ニューヨーク連銀総裁の)ティム・ガイトナーから電話です。話があるそうです』
  受話器を手で覆いながら、マックは答えた。『今は話せないと言ってくれ。こちらかかけ直す』
  5分後には、ポールソンから電話が来た。『電話には出られない。今、日本の銀行と話しているところだ。終わったら、こちらかかけ直す』マックはアシスタントにそう言った。
  2分後には、ガイトナーがまた電話してきた。マックのアシスタントはお手上げといった感じで言った。『話す必要があって、重要なことだと言っていますよ』」

 本書ではモルガン・スタンレーと三菱UFJのケースだけではなく、アメリカの主だった金融機関の経営者たちと、ポールソン財務長官をはじめとする金融当局者たちが、危機の渦中でどのように動いたかを生き生きとした場面描写を通じて描き出す。

 リーマン・ブラザーズが破綻して最初に迎えた最初の週末9月20日土曜日に、ガイトナー・ニューヨーク連銀総裁の主導により、さまざまな金融機関のM&A話が持ち上がっては消えていく様子は圧巻だ。ゴールドマン・サックスとシティグループ、ゴールドマンとワコビア、JPモルガン・チェースとモルガン・スタンレーなどの合併交渉が浮上しては不調に終わる。

 本書はだれか特定の人や会社に焦点をあてるのではなく、すべての登場人物を危機の荒波に翻弄され戸惑う人間として描く。そして、危機を回避するための必死の取り組みが果たして本当に金融システムを救うためだったのか、経営者あるいは当局者としての自分たちの地位を救うためのものだったのか、という大きな問いを差し出す。

 リーマン・ショックから1年以上がたち、ゴールドマン・サックスなどが早くも大きな収益を上げ、その社員が膨大な報酬を手にし始めるなか、政府の危機対応をいいことに利益を上げる金融機関への批判が高まっている。金融危機のときに一体、何が起き、そのときの対応は本当にアメリカ国民のためになされたのかどうか。こうした本質的な疑念を抱えた人々が本書を買い求めているのだろう。

 本書は10月下旬に、ニューヨーク・タイムズ紙の週間ベストセラーリストの単行本ノンフィクション部門で4位で初登場。直近11月27日付ウエブ版のリストでも10位に入り、5週連続でベスト10入りを果たしている。

 

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