秋山真之に学ぶ名参謀への道

2009年12月12日

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ネルソンの愛国心

 ワシントン大使館付武官となった秋山真之は、さっそくニューヨークへ赴いてマハン海軍大佐に教えを請いました。

 マハンは『海上権力史論』の著者で、当代一の戦略家として名声が高かった。そのマハンが自著の『ネルソン伝』を読むようすすめました。ネルソン提督は1805年、トラファルガーの海戦で仏西連合艦隊を撃破した。ナポレオンの野望は潰え、イギリス帝国は救われます。それ以来、大きな海戦は闘われていない。

 世界中の海軍軍人のあいだで、お手本となる英雄はネルソン提督をおいて他になかった。
ロシアのバルチック艦隊を撃滅して日本帝国を救った日本海海戦は、トラファルガーの海戦のちょうど100年あとの出来事でした。

ネルソンハ戦術ヨリ愛国心ニ富ミタルヲ知ルベシ。(天剣漫録8)

 これが秋山真之の読後の結論です。ネルソンのころ軍艦は木造帆船です。風まかせで操艦がむずかしい。敵味方が平行して舷側の砲で撃合うという消耗戦しかありえなかった。ネルソンの戦術は単純明快で、いささか乱暴なものでした。損害をものともせず、縦列で敵艦隊の中央に突進して分断する。あとは両舷の砲を撃ちまくるだけ。ただし、この戦術を実行するには非常な勇気が要る。なぜなら、突進のあいだは砲撃できない。損害に耐える勇気がなければなりません。愛国心がなければとてもムリです。ネルソンは溢れんばかりの愛国心をもっていました。

 ネルソンの時代に、イギリス海軍のなかで中産階級の出身の士官が主流となります。イギリス国教会の牧師を父に、海軍艦長を母方の伯父にもつネルソンはその典型でした。仲間の士官たちを愛し、愛されていた。ネルソンが命令すれば、仲間の海の男たちは勇気を奮って、死地に突進しました。

 それから100年がたって、秋山真之が乗り組んだ軍艦は蒸気機関の鋼鉄船です。舷側ではなく船首と船尾の砲塔に主砲を備えている。技術革新がありました。しかし、実戦の先例がほとんどなかったから、秋山真之は苦心します。

 瀬戸内海の村上水軍の古法を参考に、敵縦隊の前を横隊でさえぎる丁字戦法を編み出した。 この戦法も、敵前で順次回答頭しなければならないから危険きわまりない。愛国心にもとづく勇気がなければ、とても実行できない。戦術は技術革新で変わります。しかし、愛国心は変わりません。

 そもそも、愛国心がなければ、新戦術を考え抜く根気もつづかないでしょう。秋山真之には、愛国心ではネルソンに負けない自信がありました。秋山真之の読後観は、英雄は英雄を知る、でした。

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