2024年4月20日(土)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2016年4月27日

 台北タイムズの社説は、蔡が「一つの中国の原則」(いわゆる『92年コンセンサス』)に言及しない場合、中国がこれに対し恫喝等を含め報復的措置をとることもあり得る、としつつ、その場合でも台湾の民意の大勢は蔡政権の「現状維持」策を支持するであろう、と述べ、中国の主張に屈するべきではないと指摘しています。

中台関係が“冷たい平和”になる可能性

 この台北タイムズの社説は、台湾の新政権下で中台関係が悪化することが十分あり得ることを前提としたものです。今後、中国が硬軟両様の対台湾政策をとることが予想される中で、この社説の見通しは的を射たものと言えるでしょう。

 今後の中国の対台湾政策は軍事面、外交面、経済面、人的往来面など多岐にわたることが予想されます。特に、最近の中国のガンビア承認に見られるように、外交面での承認・非承認の対立、経済面における台湾企業への締め付け、中国から台湾への旅行者の大幅削減など、いろいろな分野で新たな変動が起こるかもしれません。中国の出方いかんによっては、中国と台湾の関係は「冷たい平和(中国人研究者の使用する表現)」の関係になる可能性が大きいでしょう。

 他方、蔡英文にとっての「現状維持」とは「台湾の民主主義と両岸の平和の現状を維持すること」であり、このような「現状維持」策を採るとの主張によって、690万人の圧倒的多数の有権者が蔡を支持した結果、総統選挙に圧勝したというのが今日の台湾の現実です。

 蔡英文の言う「現状維持」とは、「独立」でも「統一」でもない状況ですが、つきつめれば曖昧な概念ではあります。しかしながら、他方、中国と国民党が合意してきた『1992コンセンサス』という概念は、台湾を「一つの中国」という枠組みのなかに縛ろうとする、同床異夢のレトリックの上に成り立った極めて曖昧な内容のものであることに変わりはありません。

  
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