2024年4月20日(土)

野嶋剛が読み解くアジア最新事情

2016年4月25日

 山西という土地は、黄河中流域に位置し、かつては中原と呼ばれる中国史の表舞台で華々しい位置づけにあった。近代になってからは発展から取り残され、長年の開発で黄土は砂漠化し、私が初めて訪れた1980年代ごろには、本当になにもない、ひたすら埃っぽい地方都市という印象がふさわしかった。

チャイニーズドリームの地

© Bandai Visual, Bitters End, Office Kitano

 ところが、山西には石炭が豊富に産出された。それが、中国の急激な経済成長によるエネルギー需要の急増とまさにかみ合って、一攫千金のチャイニーズドリームの地となり、小さな炭坑主を中心に成功者が続出し、いわゆる「土豪(トゥーハオ)」と呼ばれる地方成金を、大量に産出することになった。

 本作は、男2人、女1人のドラマだ。「土豪」として本作で登場するのが、主人公の男性のうちの1人である「ジンシェン」である。ジンシェンはガソリンスタンド事業の成功をきっかけに、炭坑を買収し、財を成す。もう一人の男性の「リャンズー」は炭坑で働く労働者で、ジンシェンと対立し、後に肺の病気を患ってしまう。この2人が取り合うことになった女性の「タオ」は、結局、改革開放下のビジネスで大成功を遂げたジンシェンを選び、2人は結婚する。一方、リャンズーは故郷を後にして邯鄲という土地でまた炭坑で働く。そこでリャンズーは肺に大病を患ってしまう。

 これがまさに、「豊かになる者は限りなく豊かになり、貧しいものはさらに貧しくなる、という中国の富の格差の現状」(ジャ監督)を指し示している。格差のために、友情がこわれ、愛情もはかなくなる。いまや中国きっての国際的な監督となったジャ監督のメッセージはそこにある。

 山西省出身である主演女優の趙濤が女性主人公のタオを演じているが、その山西方言のあまりのうまさに舌をまく。当たり前といえば当たり前なのだが、監督があえて妻である趙濤を起用した理由もうなずける。


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