2024年4月19日(金)

Wedge REPORT

2016年4月27日

 自由化先進国の欧州を見ると、起きることははっきりしている。電力使用量がピークになった時にしか使われない、発電コストの高いバックアップ電源に投資するプレーヤーがいなくなるという問題だ。専門的には、ミッシングマネー問題といわれている。

 電力は貯蔵ができず、品質に差がつけられない商品だ。しかも需要には大きな波動がある。しかし停電させるわけにはいかないから、ピーク需要に合わせた電源設備を持っておかなければいけないが、そんな電源は稼働率が著しく低くて商売にならない。全面自由化後の厳しい競争環境では、コストの高い電源から廃棄されてしまう。実際、ドイツでは比較的新しいLNG火力まで廃棄されそうになっているくらいだ。欧州各国では結局、停電リスクが高まり、バックアップ電源への投資を促進するために、自由化とはあべこべの保護政策をとり始めた。

 温暖化政策も電源投資の障害になる。温室効果ガスを減らすのは原発か再生可能エネルギーだが、原発の変動費は安く、再エネも固定価格買取制度(FIT)で別途コストが回収されるため、卸電力市場に安い価格で入ってくる。そうすると石油やLNGはおろか石炭火力まで投資が進まなくなる。

 それで電力価格が下がればいいが、欧州各国を見ると、自由化による価格低下を打ち消すくらい、FITの賦課金が上昇している。停電リスクが上がり、電力料金は下がらない。それでも電力自由化が行われた背景には「霞が関の強い意志がある」(関係者)。

 経済産業省は電力自由化の目的関数(KPI)を「選べるようにする」=電力市場の活性化、つまり新電力参入数に置いた。たいした審査もしていないから当たり前なのだが、280社も参入があったから電力自由化は成功だった、ということにしたがっている。このKPIなら、電力料金が下がらなくても、それは自由化の目的ではないと逃げられる。

 さっそく自由化政策は他の政策と矛盾をきたしはじめている。代表例が温暖化政策だ。温暖化目標を満たすために「2030年度には小売事業者にも販売する電力の44%以上を非化石電源とすることを求める」という規制を敷き始めているが、そもそも自由化の理念を重視すればそんな電源割合が担保できるわけがない。

 自由化で強化された電力・ガス取引監視等委員会は経産省からの出向者が中枢を占めている。欧州ではこれは競争当局(日本では公正取引委員会)の仕事だ。原発事故で東電を飲み込んだ経産省は、電力自由化でまたも焼け太りしている。

「監視等委員会も電力広域的運営推進機関(OCCTO)も、いまごろになってまだそんな基本的なことを? と驚くようなレベルの情報収集をしている。"16年4月に電力自由化"ありきで進めてきたために準備が追いついていない。原発事故前、業界を全て取り仕切っていた東電の協力が得られないことも大きい」(関係者)

「全ては霞ヶ関ではなく内幸町(東電の本店所在地)で決められる」と言われたほど、電力の政策の裏側にはいつも東電がいた。原発事故をきっかけに、その因縁を晴らしにいった経産省。電力自由化が「低調」なのは無理もない。

  
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◆Wedge2016年5月号より

 


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