2024年4月19日(金)

海野素央のアイ・ラブ・USA

2016年5月11日

ヒスパニックと政治経験

 次に、ヒスパニック系に移ります。トランプ候補と共和党候補指名争いを戦ったルビオ上院議員の名前が挙がっています。同上院議員は、ヒスパニック系であり激戦州フロリダ州を地盤にしています。ルビオ上院議員は次の選挙に出馬しないので、副大統領候補に関心があるという見方があります。ただ、フロリダ州共和党候補指名争いで、トランプ候補はルビオ上院議員に18・7ポイント差で勝利を収めているので、同上院議員の力を借りずに本選でクリントン候補に対して勝算があると捉えている可能性は否定できません。

 4つ目のカテゴリーである政治的経験についても説明をしましょう。トランプ候補は、副大統領候補の条件に政治的経験、ことに行政経験を挙げています。クリス・クリスティニュージャージー州知事は、撤退後、党主流派の中で即座にトランプ候補支持を表明しました。『トランプの変化とクリントンの苦悩』で説明しましたように、従来の激戦州に加えて、トランプ候補はミシガン州、ペンシルべニア州、ニューヨーク州及びニュージャージー州を奪還する意思を示しています。従って、トランプ候補が他の激戦州と比較して相対的に見た場合、ニュージャージー州にどの程度の価値を置くのかが、クリスティ知事の副大統領候補選定と絡んでくるでしょう。クリスティ知事に加えて、政治的経験が最も豊かであるニュート・ギングリッチ元下院議長の名前も挙がっています。

 さて、共和党候補指名争いを戦い、撤退後即座にトランプ候補に対して支持表明をした元脳神経外科医ベン・カーソン氏も、副大統領候補の1人として名前が挙がっています。しかし、カーソン氏は、副大統領候補選定の調査チームに入るので、同氏が指名を受ける可能性は低いかもしれません。

ケーシックオハイオ州知事のメリットとデメリット

 トランプ候補は、上で挙げた候補の中でケーシックオハイオ州知事を高く評価しています。そこで、ケーシック知事を副大統領候補に選定した場合のメリットとデメリットについて整理してみます(図表2)。

 言うまでもなく、本選でオハイオ州は激戦州の中の激戦州になります。そのオハイオ州での共和党候補指名争いで、トランプ候補はケーシック知事に11.2ポイントの差で敗れています。指名が確実になっても党主流派との亀裂を埋められないトランプ候補には、党を統一し一体化を図ることができる候補が不可欠です。

 政治専門サイト「リアル・クリア・ポリティックス」によりますと、トランプ候補はクリントン候補との仮想対決において、各メディアの世論調査(16年4月11日-5月11日実施)の平均値で6.5ポイントのリードを許しています。一方、ケーシック知事はクリントン候補との仮想対決で、世論調査(16年4月10日-5月1日実施)の平均値で7.4ポイントもリードしているのです。しかも、同知事にはトランプ候補が求めている行政経験があります。

 東部ニューハンプシャー州で戸別訪問を実施した際、トランプ候補が共和党の指名を獲得した場合、民主党のクリントン候補に投票するというケーシック支持者がいました。トランプ候補は、ケーシック知事を副大統領候補に選定すれば、このような有権者をくい止めることができるのです。同知事のメリットは数多くあり、トランプ候補にとって魅力的であることは間違いありません。

 しかし、デメリットも存在します。トランプ候補の弱点である女性票、アフリカ系並びにヒスパニック系の大幅な票の獲得は期待できません。クリントン候補とエリザベス・ウォーレン上院議員(民主党・マサチューセッツ州)の関係のように、トランプ候補とケーシック知事の間にラポール(親密な関係)があるのか、相性は良いのかも極めて重要な要素になりますが明確ではありません。そもそもケーシック知事は、まだトランプ候補を支持表明していないのです。

 共和党候補指名争いで、トランプ候補は職業政治家、エスタブリッシュメント(既存の支配層)及びインサイダーを攻撃してきました。3つのカテゴリーに属するケーシック知事を副大統領候補に選定した場合、不満を抱くトランプ支持者が出てこないとは言い切れません。いずれにせよ、トランプ陣営における副大統領候補選定のプロセスは、激戦州、女性、ヒスパニック系及び政治的経験に基づいて進んでいくでしょう。


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