WEDGE REPORT

2009年12月17日

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 同社はもともとデパート等での仏像販売を主としている会社で、経済的に余裕のある中高年層がターゲットだった。社長の森田氏によれば、今年は顧客に20~30代の女性が増えているという。歴女、仏像ガールと呼ばれる女性たちだろう。彼女たちは、有名ブランドの財布やジュエリーを買うよりも、おだやかな静けさを部屋に演出する阿修羅を選んだ。

心の対話を楽しむ展覧会

 部屋に阿修羅を飾っておきたいという心理は、どのようなものだろうか。

 もちろん、展覧会に足を運んだ記念に購入したということもあるだろう。だがやはり、実際に展覧会を見た人たちは、そのすばらしさに強く心を打たれた。だから、同じ像を手元に置きたいと考えた。

 「国宝 阿修羅展」を企画した東京国立博物館の特任研究員・金子啓明氏は、その企画意図を語る。

 もっともこだわったのは、阿修羅とお客さんの出会いをどう演出するか。具体的には、仏像という宗教的な作品をいかに展示するかということだったという。

 「明るいところにただ羅列的に置くのではなく、仏像がもつその崇高さ、敬虔さをできるだけ削がないように展示することを、第一の主眼として心がけました。そのために、ゆるやかなスロープで阿修羅を取り囲んだ阿修羅室というものを作った。私が設営に取り入れたかった二つの要素、「空間」と「時間」を楽しんでもらうためです。空間というのは、彫刻が持つ特有の空間を生かすということ。よい彫刻というのは、像からよい“薫り”が発散されている。それは十分な空間を取らなければ生きてこないんです。

 阿修羅は1300年という歴史を背負っているだけでなく、物理的にも3つの顔をもっていますから、正面だけでなく左右の面を見るのにも時間が要るわけです。お客さんはスロープをゆっくり下りながら、そういう阿修羅が持っている時間を体験できる。阿修羅との心の対話を可能にするディスプレイにしたかったのです。」

「国宝 阿修羅展」にはたくさんの人々が訪れた
阿修羅像(国宝/奈良時代・734年 奈良・興福寺蔵)

 企画意図を実現するために、照明や展示デザインを担当するデザイン室のメンバーらと、入念な打ち合わせを重ねた。長い手を6本持つ阿修羅は、たくさんの影ができてしまう。もっとも美しく見える角度を確認するために、何度も実験を重ねた。また、天井の高い博物館は思うように照明ライトが仏像に届かない。吊るしたリングに照明をセットしたり下からの照明を加えたりして、あの美しい展示をつくりあげたのである。

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