2024年4月19日(金)

したたか者の流儀

2016年6月17日

 日本が江戸時代のころ、事実上のフランス中央銀行の総裁は、元詐欺師で決闘による殺人者であった。フランスの名誉のために言うと、彼はスコットランド人だ。中央銀行の総裁だからと言って、その国の人である必要もない。イングランド銀行の総裁はカナダ人だ。

 いまだに新書は版を重ねているが、作者の日本人は、ルワンダの中央銀行総裁だった方だ。中東オマーンの総裁はカヤタというがシリア人だった。総裁ではないが米国の中銀(FRB)の副総裁はイスラエル人。中国人民銀行の総裁は、小川さんと言って日本人と思うが、これは中国人だ。

 件のフランスのスコットランド人の総裁は、名をジョン・ローという。彼は、最近流行った債務を株式に交換することや、紙幣の発行の先駆者だ。おかげで、不景気だった当時のフランスは逆に好景気となったが、何らかの理由で彼の政策にタガがはめられたため逆回転し、結果的に追放されてしまった。単なる詐欺師ではなく、経済学の本を紐解くと必ず彼のスキームは登場する。歴史的に重要な経済学者を30人選べば入選するのだ。女たらしでもあったそうだ。

中央銀行の去就に一喜一憂

 戦後すぐのころは日本銀行にも、法王と呼ばれる大物がいて女性に新橋で料亭をやらせているとの噂があるものの、大蔵省にも一言ならず十言でも物申すことができた人だ。日本経済の発展の恩人の一人であろう。現在では考えられないことだ。ただし、失敗もあり、千葉の海辺に製鉄所を作ろうとした豪傑に、塩を送らず、 “ぺんぺん草”をはやしてやると反対。この製鉄所がなければ日本高度成長も危うかったかもしれない。とはいえ、罪より功がはるかにまさる方であろう。

 現在の日本では、世間様が許してくれないだろうが、逆に自分でマンションを買って範を示すのを見ると、昔O-157騒ぎで苦境に落ちたカイワレ大根を記者会見で食べてみた厚生大臣を少しだけ思い出してしまう。昨今中央銀行の去就に人々が一喜一憂する度合いが異常値に達している。まさにラプソディーだ。

  
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