2024年4月26日(金)

ASEANスタートアップ最前線

2016年5月19日

E27 COO Thaddeus氏へインタビュー
NUS Oversea Collegeが
“マインドセット”を大きく変える理由

 今回の記事ではNUS Oversea Collegeの卒業生の一人であり、かつ東南アジアのエコシステムビルダーの第一人者でもある、E27のCOO、Thaddeus氏(以下Ted)にインタビューし、経験談を語ってもらった。彼は2000年前半にNUSに入学、機械工学を学ぶごく普通の学生だった。そんな彼が、友人から「面白いプログラムがある」と言われて紹介されたのがNUS Oversea Collegeだった。

 スタートアップってそもそも何だ? と、起業には全く興味が無かった。1年卒業が遅れてしまうというだけでほとんどの学生が躊躇していたけれども、彼は海外で一年過ごすことに好奇心を抱き、シリコンバレープログラムに応募、見事選出され、パロアルトに渡った。

 前述の通り、プログラムは、パートタイムの授業と、フルタイムのインターンシップで構成される。Tedにとっては、そのどちらも貴重な体験になったと言う。スタンフォードの授業では、マーケティングの授業を履修した。何が一番学びになったのか? との質問に対し、彼は懐かし気にチームプロジェクトの話をしてくれた。1カ月のチームプロジェクトで、東南アジアからの留学生はASEANチームを結成したのに対し、彼はアメリカ人中心のチームに参画した。

 ASEANチームは、週に3回ミーティング、毎回数時間を割きながらプロジェクトを進め、最終評価はA+を取ったという。一方で、Tedが入ったアメリカ人中心のチームは、ミーティングは週1回、毎回決まって2時間で集中して行い、最終的な成績はA-だったという。最終的な評価はASEANチームに劣ったとはいえ、費やした時間に対した効率で言えば、アメリカチームの方が圧倒的に優れていた。

 この経験のように、彼は「最短の時間で最高のパフォーマンスを上げるアメリカ流の働き方」と、「民主主義的に細かく時間を費やすアジア流の働き方」2つの違いを見出したという。もちろん一朝一夕だが、マルチタスクになればなるほど機能するのはアメリカ流であり、この経験が今の仕事にも生きているという。

 フルタイムのインターンは、Cataphoraという当時イケイケのスタートアップに大学よりアサインされた。トラッキングシステムの開発サポートをするエンジニア職を1年間務めたそうだが、職種内容よりも、職場環境に大きな影響を受けたという。「スキルで雇う」シリコンバレーには、人種も国籍も関係ない。当時、Cataphoraのオフィスには、20カ国以上のエンジニアがそろって働いていたという。

 多国籍の職場環境に放り込まれた彼は、最初に企業文化を学び、まずはそのコミュニティに受け入れられる(フォローする)ことの重要性を知った。その後、自分個人のユニークさをコミュニティの中で発揮する(リードする)ことを学んだという。この教えは、現在会社を経営する時に、新しい社員に対しても伝える大切な教えになっているという。

 1年のプログラムを終え、シンガポールに帰国した時には、以前とは全く異なる考えを持っていたことに気づいたという。シンガポールでは、良くも悪くも、そして今でも、大学で学んだことが就職に直結し、それが当たり前だと思っている人が多いという。

 たとえば、医学を勉強したら医者だし、機械工学を勉強したらエンジニアになる、そんな決まりきったレールが敷かれている。シリコンバレー生活での一番の学びは、「何か新しい価値を創ればそれを評価して対価を払ってくれる人はいる」ということに気づいたことだという。専攻が何であろうが、世の中に価値を提供すれば、それを評価し投資をしてくれる、応援してくれる人はいる。彼は、卒業後、E27を起業し、東南アジアではTech in Asiaと肩を並べるテックメディアを築き上げるに至る。


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