2024年4月26日(金)

WEDGE REPORT

2016年5月23日

沈黙のイスラム国

 一番大きいのはやはり、テロの可能性だろう。何者かが機内に爆弾を持ち込んだり、荷物に仕掛けたという仮説だ。フランスやエジプトの治安当局は米連邦捜査局(FBI)の協力も得て乗客、乗員66人の身元、また離陸地パリ・シャルルドゴール空港で機体に近寄った可能性のある約100人から事情聴取、9000台に上る監視カメラの映像分析を急いでいる。

 同機はパリを離陸する前、エリトリアのアスマラ、チュニジアのチュニス、そしてカイロを回ってパリに到着しており、一部の治安関係者からは爆弾が機内に持ち込まれたとすれば、警備の厳しいシャルルドゴール空港ではなく、こうした経由地の空港だったのではないか、との見方も出ている。

 チュニジアは過激派組織イスラム国の外国人戦闘員の最大の供給先であり、日本人女性3人が死亡した昨年3月の外国人観光客襲撃や、6月の高級リゾート銃撃などのISによるテロが発生している。エジプトでは、昨年10月、シナイ半島上空でIS分派「シナイ州」がロシア旅客機を爆破し、224人が犠牲になっている。

 テロだとすれば、最も疑わしいのは海外でのテロに戦略を転換しているISだ。しかし当のISはじめ、国際テロ組織アルカイダなど既存のテロ組織からは22日現在、犯行声明などは一切出ていない。彼らはテロの成果を誇るために犯行声明を出すのが通例だが、それがないのだ。

 ISの公式スポークスマンで、対外戦略の責任者であるムハマド・アドナニは21日の音声メッセージで、米主導の有志国の空爆を非難したが、エジプト航空機の墜落には全く触れなかった。

 クレオパトラの町、エジプトのアレキサンドリア沖300キロの海域では墜落機や遺体の一部が回収されているが、墜落原因のカギを握るボイスレコーダーなど基幹部分は未発見だ。同海域は水深2000メートルを超え、潮流も速いとされていることからボイスレコーダの回収は難しいかもしれない。

 墜落したエアバス機は約2年前、エジプトが軍のクーデターなどで政治的に混乱期にある中、カイロ空港で機体に「墜落させてやる」という落書きをされた。落書きは空港職員によるものだったが、当時を知る関係者らは不気味な符号に当惑気味だ。


  
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