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2010年1月2日

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 「世の中、直感で把握するのを忘れて、分析癖がエスカレートしているから、本質を見誤るんだと思います。家を建てる時も、断熱性能とか間取りとか、部分を分析的に見るばかりで、その空間に入った瞬間『あぁ、いいな』という、体から湧いてくる感覚を大事にしない。まず大事なのは、『いいな』と感じるかどうかでしょう」

 家探しでも婚活でも何でも、今は分析ばやりだ。インターネットが助長しているのか、条件を入力すればターゲットが絞られる仕組みはあちこちにある。部分から入って全体を把握しようとするあまり、分析しなければ安心できなくなった人間は、体が感じるものよりも、個々の条件にまつわる知識を大事にするようになった。相手が家であろうと人物であろうと、ぱっと見た時に善し悪しを察知する能力が人間にはあるのに、いつしか退化してきた。

豊かな空間は、人間の可能性を引き出します

高橋修一(たかはし・しゅういち) 1947年生まれ。73年から白井晟一研究所に勤務。83年に住まい塾を立ち上げて代表を務める。設計者・施工者・建て主の信頼関係をベースとした家づくり運動を展開し、これまでに手がけた住宅は600棟。塾は現在、設計スタッフ20人、施工賛助会員100社、ユーザー1500人。http://www.sumai-jyuku.gr.jp/
写真:田渕睦深

 建築家の高橋修一は、体から湧いてくる感覚が廃れた背景に、住空間の貧しさがあると考えている。高橋は27年前に住まい塾を立ち上げた。住まい塾と聞くと、ハウスメーカーが建て主にハウツーを教える場を想像するかもしれないが、まったく異なる。高橋は「豊かな空間の住宅を、ローコストで実現する」という目標に向かって、設計者、施工者、建て主の三者がそれぞれに研鑽し、実際に家を建てるという集団をつくった。建て主は高橋と「住まいとは、暮らすとは何か」を延々と議論し、互いの納得が得られて初めて家づくりに移る。思い立ってから竣工まで数年かかることもザラだ。

 では、高橋が住まいの根幹と考える「豊かな空間」とは何か。それが、湧出する感覚を取り戻すことと、どうつながるのか。

 「都市生活では、外からの求めに対して忙しく反応しているだけです。自分の内側からは、ほとんど湧いてきていません。どうしたら内側から湧く経験をすることができるのか。一時、都心を離れることも効果があるでしょうが、日常的に時間を過ごす住まいが、気持ちが落ち着き、居心地がいいという空間であることが大事だと思います。そう感じられる空間が、その人にとって『豊かな空間』ということです」

 「豊かな空間は、人間の可能性を引き出します。野菜が育つのに合う土と合わない土があるように、人間が潜在的に持つものを芽生えさせるには、どこに身を置くかが大事です。コンクリートに囲まれた冷たい空間にいれば温かみのない人間になりやすいように、空間は人間性の形成に大きな影響を与えます」

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