2024年4月25日(木)

WEDGE REPORT

2016年5月30日

 このため制圧作戦の先鋒はあくまでもアラブ人であることを条件に米側の説得に応じたようだ。シリアのクルド人は3月、実行支配しているトルコとの国境沿いの3地域に連邦制を宣言、事実上の自治区とした。シリア政府は国を分断すると非難、トルコも安全保障上の脅威として断固反対する姿勢を示している。

 ベイルート筋によると、米側はYPGをラッカ制圧作戦に引き入れるため、“報償”として「クルド自治区」の発足を容認する約束をした可能性があるという。ISを壊滅させた後で、この米国の約束が大きな国際的問題になるかもしれない。この辺の空気を察知しているトルコは最近、前線の米特殊部隊がYPGの記章を付けていることを問題視し、米側に抗議するなどクルド人をめぐる対立が表面化している。

 IS側はラッカの攻防が組織存亡の最大決戦だと位置付けており、徹底抗戦する構え。地雷を敷設するなど防御線を強化し、少年を中心とする自爆部隊も整えている。戦いに備えて幹部の家族を町から逃がしている。ラッカには40万人が居住していたが、その半分はすでに脱出した。残留した住民の間には戦闘に巻き込まれる恐怖が充満している、という。

 今回の作戦に踏み切ったのは、米空爆の効果が昨年の秋頃から出始め、ISが相当弱体化しているとの分析が背景にある。米空爆が有効になり始めたのは空爆の指揮権を米本土の中央軍から前線の指揮官に委譲してからだ。情報の精度が格段に上がったこともあり、ラッカ市内のIS中枢部へも打撃を与えられるようになった。4月の米軍の空爆は1日平均17回とこれまでより増えた。

謎のイラン将軍再びイラクの前線に

 このラッカ制圧作戦の一方で、イラクではバグダッド西80キロにあるファルージャ奪回作戦が始まった。ファルージャ近郊には、イラク政府軍、イラン支援のシーア派民兵軍団など数万人が集結。イラン革命防衛隊のエリート「コッズ部隊」のスレイマニ司令官も現地入りしていると伝えられている。


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