イノベーションの風を読む

2016年6月3日

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川手恭輔 (かわて・きょうすけ)

コンセプトデザイン・サイエンティスト

1990年代から、大手メーカーでインターネットサービスの企画・開発・運用を手がけ、自ら立案したグローバルなサービスを複数立ち上げた経験を持つ。その1つは、サービスのデザインでグッドデザイン賞を受賞した。コンピューターサイエンス関連の翻訳本も多数ある。

 製品のコモディティ化や経済のグローバル化が急速に進み、 単一の製品や技術のみで差別化をはかり、そのアドバンテージを長期間にわたって維持してゆくことが難しくなったという状況が、とくに日本の製造業において困難な事態を引き起こしている。その危機を乗り越えようと、イノベーションを起こす人材の発掘やイノベーションを可能にする組織をつくる取り組みを始める企業が増えてきた。

 しかし、イノベーションを死滅させてしまった土台をそのままにして、上物だけを変えてもイノベーションを生み出すことはできない。それどころか、その土台は日本の製造業をさらなる窮地に陥れる「不正」を生むものになってしまった。その土台とは成果主義という人事制度だ。

成果主義がイノベーションを死滅させた

iStock

 成果主義による人事制度は1990年代に、高度経済成長期が終わりバブルの崩壊によって売上や利益が落ち込む中で、それまでの年功序列で右肩上がりで増え続ける人件費を抑えたいと考える企業が相次いで導入した。成果主義は社員を仕事の成果よって評価しようという考え方だが、その仕組みはコンサルタントによって米国から持ち込まれた。

 成果主義は成果を求めるがあまり、社員に個人の成果目標を達成することだけを優先させてしまう危険がある。設定された成果目標は達成して当たり前なので、それだけでは評価(給料)が上がることはない。ならば初めから目標を低く設定すれば、楽に目標以上の成果をあげることができると考える社員も出てくる。成果によって報酬が決まると言っても、人件費という限られた原資の配分であることに変わりはないので、成果の評価は組織単位での相対的なものになってしまう。個人の目標を確実に達成することだけが仕事の目的になってしまえば、自分の仕事の枠を超えて協力し合ったりリスクをとってチャレンジしようという自由闊達な雰囲気が失われ、結果的に組織のパフォーマンスを低下させてしまう。本家の米国においても、このような成果主義のデメリットはすでに指摘されていた。

 成果主義を導入した企業では、成果(結果)だけで評価するのではなく、その期間の行動も評価に加味するなどの人事制度の改革を行ってはいるが、成果主義という基本は変わっていない。成果主義がイノベーションを死滅させる原因は、革新的なテーマを排除してしまうその仕組みにある。

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