2024年4月20日(土)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2016年6月1日

 首脳宣言にこうして猛反発するだけでなく、中国政府はサミット開催の前後で宣伝機関を総動員して伊勢志摩サミットに対する攻撃を繰り返した。

 たとえば5月28日付中国共産党機関紙・人民日報は「問題をあおり立てて一体何が得られたか」との論評を掲載してサミットを批判した。国営新華社通信も同27日、「見解の隔たりは大きく、成果は乏しかった。日本が私欲のために(南シナ海問題などの)議題を持ち込み、サミットの意義を損なった」などと非難した。

 また新華社の別の記事では、サミットを「時代遅れの金持ちクラブ」と批判した上で、「もはや先進7カ国(G7)には国際社会を動かす影響力はない」と切り捨てた。

 こうして、中国政府は今回の伊勢志摩サミットをまるで「目の敵」であるかのように扱って貶め、首脳宣言に対しては過剰反応ともいうべきほど反発した。サミットの歴史上、中国がこれほどG7と対立して激しく反応したことがあっただろうか。それは要するに、中国政府は今、G7を中心とした国際社会の動向に対し大変な危機感と焦燥感を抱いていることのあらわれであろう。

 中国は一体何を恐れて、何に焦っているのだろうか。その背後には、今春からの南シナ海問題を巡る関連諸国の慌ただしい動きがあった。

着々と進む「中国包囲網」の構築

 まずは今年3月9日、米国がB1などの戦略爆撃機をオーストラリア北部ダーウィンの空軍基地に巡回駐留させることを豪州政府と協議していることが判明した。

 同14日、マレーシアのヒシャムディン国防相は、南シナ海での中国による軍事拠点構築に関し、「一国では(中国の)攻撃的行為を止めることはできない」とし、オーストラリア国防相と会談して連携を模索する考えを示した。

 同31日、インドネシア政府が「海賊」対策のために南シナ海南端のナトゥナ諸島に戦闘機F-16を配備する意向を示したことがブルームバーグ通信によって報じられたが、単なる「海賊」対処のためなら、戦闘機F-16の配備など必要ないことは自明である。明らかに、南シナ海での軍事拠点化を急スピードで進める中国への対抗策であろう。

 そして月が変わって4月2日、今度は安倍晋三首相がワシントンでインドのモディ首相と行った会談で、両首脳は中国の南シナ海進出への「懸念」を共有した。


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