2024年4月19日(金)

古希バックパッカー海外放浪記

2016年8月7日

オーズの町の闘牛場

“歩くことは祈ること”

 彼女とはその後ピレネー山脈を越えてからも数回出会った。やはりいつも宿には夕刻やっと到着して、昼間はいつも一人で黙々と歩いていた。ある時、一緒に歩いていたらお昼時になったので通りかかった教会前のベンチに座って一緒にランチした。彼女は食費も切り詰めておりランチはパンと水だけであった。私がチーズとサラミを切って彼女のパンに載せてあげると素直に礼を述べて美味しそうに食べていた。

 ランチをしながらおしゃべりしていると「タカ、イングリッド・バーグマンの映画知っている? 主人公の生き方に凄く感動したわ。主人公のように異国の貧しい人達を救う活動をするのが私の夢なの」と自分に言い聞かせるように静かに言った。

 東京大聖堂で発行してもらった巡礼手帳には「歩くことは祈ること」という言葉がある。そして東京大司教の言葉として“看想”という言葉がある。瞑想は目を閉じて行うが、逆に心を開いて周囲を静かに看ることも“祈り”であるという。「歩き、看る、祈る」が巡礼の基本という。アン・エレンと一緒にランチをしていたら、この巡礼手帳の言葉を思い出した。

闘牛のポスター

 最後に出会ったのは6月下旬だ。聖地サンチアゴまで100kmに満たない地点だった。あと数日で聖地サンチアゴに到着できる距離だ。彼女は路線バスを待っていた。友達の結婚式に出席するため残念だけど巡礼を止めてランスに戻るという。いかにも無念そうに少し涙を浮かべていた。

 アン・エレンの乗ったバスは砂埃を舞い上げて峠を下りて行った。私はそのときふっと思った。フランスの伝説的英雄、“オルレアンの少女”ことジャンヌ・ダルクはきっとアン・エレンのような敬虔で内気な少女であったのだろうと。

⇒第8回に続く

  
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