2024年4月16日(火)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2009年12月23日

 「蟻族」の大量存在は、政権にとっては頭痛のタネであろう。近現代にいたる中国史上、富と権力から疎外された若き知識人は常に反乱や革命を起こす中核となっているからである。かつての太平天国の反乱はそうであり、毛沢東たちの共産革命もそうである。

 現在の「蟻族」の場合、エリートだと自任しながらも、社会的立場もなく貧困層同然の生活を強いられる一方で、国内の富豪たちの超セレブ生活や権力の腐敗ぶりを目の当りにしていては、心の中は穏やかであるはずはない。彼らの多くはいずれか、この社会はどこかで間違っているのではないかと、政治や社会全体のあり方に懐疑の目を向けていくだろうが、それはすなわち、「革命思想」の芽生えとなるのである。

 予想できる近未来では中国の就職事情が改善されることはまずない。07年度に約13%の成長率を達成しながらも3割程度の大卒者が就職できなかったことは上述した通りだが、今後は「8%成長」を達成できるかどうかが覚束ないような状況となるだろうから、就職難は長期的な傾向となるだろう。その中で、人数がますます膨らんでいく「蟻族」の不平不満はいつ爆発するのか――。それはまた、中国社会の抱える「時限爆弾」の一つなのである。

 

 

※次回の更新は、1月6日(水)を予定しております。

◆本連載について
めまぐるしい変貌を遂げる中国。日々さまざまなニュースが飛び込んできますが、そのニュースをどう捉え、どう見ておくべきかを、新進気鋭のジャーナリスト や研究者がリアルタイムで提示します。政治・経済・軍事・社会問題・文化などあらゆる視点から、リレー形式で展開する中国時評です。
◆執筆者
富坂聰氏、石平氏、有本香氏(以上3名はジャーナリスト)
城山英巳氏(時事通信社外信部記者)、平野聡氏(東京大学准教授)
◆更新 : 毎週水曜

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