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2016年6月20日

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地元選挙区で有権者との対話集会の際に殺害された英労働党のジョー・コックス下院議員を追悼する基金に、70万ポンド(約1億円)超の寄付が集まっている。地元バーストルで開かれた追悼ミサでは、議員を「21世紀の善きサマリア人(善き隣人)」などと称える声が相次いだ。

コックス議員の夫ブレンダンさんは、妻の追悼に集まった寄付金は、本人が大切にしていた3団体に寄付すると説明した。3団体は、高齢者支援の王立ボランタリー・サービス、NGO「HOPE not hate(憎しみではなく希望を)」、シリアの民間ボランティア救助隊「ホワイト・ヘルメッツ」。

バーストルの聖ピーター教会では、ナイト牧師が「貧しい人たち、抑圧された人たちのために熱心に働いた」コックス議員を称え、「その人間性は強力で説得力に溢れていました。彼女は実に見事な、21世紀の善きサマリア人でした」と述べた。

また、コックス議員を助けようと銃撃犯と格闘して負傷した77歳のバーナード・ケニーさんについても、ナイト牧師は「とても勇敢な人だと思う」と称賛。集まった人たちも口々に称えた。ケニーさんは入院中だが容体は安定しているという。

追悼ミサを主催した議員の友人たちの団体「More in Common(共通点の方が多い)」は、コックスさんの「温かさ、愛情、エネルギー、情熱、華やかさ、ヨークシャーの人間として受け継いできたもの、あらゆる場所のあらゆる人の人間性への信頼」を祝うことが目的だと話した。同様のイベントは、バトリー・アンド・スペンのほか、ニューヨークやブリュッセル、ワシントンやナイロビでも予定されている。

友人たちはそのほか、コックス議員の42歳の誕生日となるはずだった22日、ロンドンのトラファルガー広場で追悼集会を開くと発表している。

夫ブレンダンさんは19日、ツイッターで子供たちとキャンプに出掛けたとツイートした。「ジョーはキャンプが大好きだった。彼女を追悼するためゆうべ、子供たちとキャンプして、前にみんなして日の出と共に鳥の合唱に起こされた時のことを思い出していた」。

18日には事件のあったバーストルの広場に、議員の両親ジーンさんとゴードンさん、妹のキムさんのレッドビーター一家が集まり、無数の花束を前に、支援してくれる人たちに感謝した。

キムさんは「私も両親も、ふだんは目立つことをしたくないので、ジョーは今まで私たちの気持ちを尊重して、私たちが世間の注目を浴びないように気を遣ってくれていました」とあいさつ。

「けれども、この恐ろしい事件が起きてからというもの、あまりに本物の悲しみと同情と愛情が皆さんから溢れ出ているので、このまま何もしないで見ているわけにはいきませんでした。なのでジョーの家族を代表して、ジョーに愛情を友情を表してくださった皆さん、私たちを思って追悼の気持ちをくださった皆さんに、心から誠心誠意のお礼を申し上げます」

さらにキムさんは、「この団結を今後も続けなくてはなりません。ジョーが残したものの一環として。ジョーの言葉を借りるなら、私たちを分断するものではなく私たちを一つにするものこそ、大事にしなくてはならないのです」と呼びかけた。

英議会は20日、下院で議員を追悼する。グレイリング下院院内総務は、通常の党派別の座席割はこの日は止めるべきだという意見に賛成し、「普段の党派政治からは何百マイルも距離をおくべきだ」と述べた。

労働党のコービン党首は、議員追悼のために集まったバーストルの人たちが「人種を問わずみんな一緒にまとまって、ショックと悲しみに暮れていた」と、住民同士のつながりに感動したと話した。

名を名乗らず

16日にバーストルで支援者の対話集会を始めようとしていたコックス議員を殺害した疑いで、ウェストヨークシャー警察はトマス・メア容疑者(52)を逮捕した。殺人のほか、傷害、事件を起こす意図を伴う銃器所持、不法武器の所持などの容疑で訴追され、ロンドンに移送されウエストミンスターの治安判事裁判所に出廷した容疑者は、住所や誕生日を答えず、罪状認否にも応じなかった。

氏名を問われても本当の名前を名乗らず、「自分の名前は裏切り者に死を、英国に自由をだ」と答えた。

メア容疑者が、極右団体の同調者だったという情報もあり、自宅の家宅捜索で警察は、ナチス・ドイツ関連の書籍などを押収したという。

事件の目撃者は、容疑者が「Britain first!(英国第一)」と叫んでいたとBBCに話しているが、左派白人政治家を憎んでいると公言する極右政党「Britain First(英国第一党)」はビデオで、事件を非難する声明を発表。自分たちは無関係だと主張した。

ウェストヨークシャー警察は17日夜、極右過激主義とのつながり、および容疑者の精神状態のいずれも捜査対象だが、「ほかに共犯のいない単独の攻撃」のようだと現時点ではみているとコメントを発表した。また「不法銃器をどのように入手したのか」捜査を続けると説明した。

警察はさらに、2人の医療専門家が容疑者を診察した結果、「勾留と事情聴取に耐える」状態だと判断したと述べた。

南アフリカのアパルトヘイト支持組織が発行する雑誌の過去の定期購読者リストに、容疑者の名前が含まれているという情報もある。雑誌「SA Patriot(南ア愛国者)」は、確かに容疑者は1980年代に購読者だったようだが、一時的なことで、雑誌関係者は容疑者に会ったことがないと説明した。

一方で、米国の公民権団体「SPLC (南部貧困法律センター)」は、容疑者が1999年~2003年にかけて米国のネオナチ団体「National Alliance (NA、国民同盟)」と関係していたことを示す記録を入手したと主張し、銃の作り方や爆発物の作り方を教えるNAのマニュアルの購入領収書だという画像をツイートした。

SPLCのリチャード・コーエン会長はBBCに対して、メア容疑者がほかにもNA発行の白人至上主義的な内容の刊行物を定期購読していたと話した。

英ティーズサイド大学でファシズムが専門のマシュー・フェルドマン教授は、領収証は「本物のようで、1999年にインターネットがきっかけでナオナチスによる爆破事件が最初に流行った後に、購入したようだ」と話す。

一方で調べによると、コックス議員殺害に使われた銃は自家製ではなく、本物の銃の銃身を何らかの形で短く切り詰めたものだったという。

メア容疑者は祖母が20年前に死亡して以来、独り暮らしだったという。近所に住む男性は「とても物静かな人だ。庭仕事とかが好きで、とても口数の少ない人だ」と話す。

別の近隣住民は「テレビで写真を見て、妻と2人で『あり得ない』と口にした。バーストルの知り合い全員の中でも一番あり得ない」、「人見知りの優しい人」だという容疑者について、物知りで政治の話をよくしたが、過激思想の片りんも口にしたことがなかったと話した。

弟のスコット・メアさん(50)は16日、報道陣に対して、「精神疾患を患っていたことはある」ものの「治療も受けていた」と話した。

メアさんは英大衆紙サンに対して、「何が起きたのか理解しようと家族は苦しんでいる。兄は暴力的な人ではないし、それほど政治的というわけでもない。誰に投票しているのかも知らない。議員とご家族に本当に申し訳なく思う」と話した。

容疑者と片親が同じ弟のデュエイン・セントルイスさん(41)は英ITVに、兄は「ハエ一匹傷つけたりしない」人だと話した。「イギリスや政治について政治信条を口にしたこともないし、人種差別的な言動をみせたこともない。僕は混血で、彼と片親が同じだけど、兄とは仲がいいし」。

容疑者は6年前、地元紙に対して、バーストルの公園でボランティアとして働いた経験が自分の精神疾患に役に立ったと話している。記事で容疑者は「どんな心理セラピーや投薬治療よりも、この方が役に立った」と述べている。

(英語記事 Jo Cox MP remembered as '21st Century Good Samaritan' Jo Cox death: What we know about the suspect)

提供元:http://www.bbc.com/japanese/36573239

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