2024年4月19日(金)

海野素央のアイ・ラブ・USA

2016年6月22日

 西部コロラド州及びネバダ州といったヒスパニック系(中南米系)の有権者が多い激戦州では、トランプ候補は例の「国境の壁」発言により、苦戦を強いられると考えるのが妥当でしょう。従って、同候補は東部、中西部及び南部でルートを開拓することになります。いづれにしても、同候補の過半数270へのルートはかなり限られています。選挙人270を獲得するためには、共和・民主両党の候補は種々のルートを保持していることが不可欠なのです。

「揺れる州」と「オクトーバー・サプライズ(10月の驚く出来事)」

 トランプ候補と対戦するクリントン候補のルート270もみていきましょう。トランプ候補のルート270では、ロムニー候補の選挙人獲得数206をベースにして選挙人数を加算していきました。それに対して、クリントン候補の場合は、12年米大統領選挙でオバマ大統領が獲得した選挙人332から減算していきます。

 オバマ大統領の選挙人獲得数332をベースに考えますと、クリントン候補には選挙人62(332-270=62)の貯金があります。極論を述べれば、激戦州の中の激戦州であるオハイオ州(18)とフロリダ州(29)の両州をたとえ落としても、選挙人の貯金は15(62-47=15)あるのです。それに加えて、ペンシルべニア州(20)まで落とすと、選挙人の貯金は一気に消えてトランプ候補に敗れることになります。フロリダ州(29)、ペンシルべニア州(20)及びミシガン州(16)の選挙人の合計は65なので、3州をセットで落とした場合も、米国史上初の女性大統領誕生は無くなります。

 前で紹介したオバマ選対の地域マネジャーが、米国の地図を壁に映しながら、オハイオ州(18)とフロリダ州(29)の選挙人の合計47をたとえ獲得できなくても共和党候補に勝てる戦略を、ボランティアの運動員に説明していました。当時は、バージニア州(13)とノースカロライナ州(15)の南部2州がセットになり、両州の獲得が鍵を握っていました。しかし、民主党全国党大会が開催されたノースカロライナ州では、共和党が同州を奪還する可能性が高まったために、オバマ陣営は選挙人15以上を他州で確保しなければなりませんでした。結局、同陣営は、オハイオ州とフロリダ州のどちらかの州で勝利を収めなければならなかったのです。

 クリントン候補の場合、第1に08年及び12年米大統領選挙でオバマ大統領が勝利をしたペンシルベニア州並びにミシガン州を確保する必要があります。ことに、今回の本選では、クリントン候補がトランプ候補のペンシルべニア州を絡めたルートを断ち切ることが最大のポイントになるでしょう。具体的に述べますと、オハイオ州、フロリダ州及びペンシルべニア州のいずれかの州で勝てば、トランプ候補のルート1を切ることが可能になります。第2に、クリントン候補はバージニア州並びにニューハンプシャー州において有利に戦えば、トランプ候補の270へのルートをかなり狭めることができます。第3に、クリントン候補が前回の大統領選挙で共和党に奪還されたノースカロライナ州を取り戻せば、トランプ候補は同州の選挙人15をオハイオ州、フロリダ州、ペンシルべニア州、ミシガン州、バージニア州及びニューハンプシャー州以外の州で補う必要が出てきます。同候補の選挙人270の獲得を困難にすることができるのです。

 以上、トランプ・クリントン両候補の選挙人獲得のシミュレーションを行ってみました。ただ、国内テロや銃乱射事件に対して有効な手立てを講じることができない状態で本選が進み、投票日一カ月前ないし直前になって再びテロや銃の乱射が起きると、トランプ候補に有利に働く可能性は否定できません。というのは各種世論調査によりますと、テロに対する効果的な対応やリーダーシップの面で、トランプ候補はクリントン候補をリードしているからです。

 あってはならないことですが、投票日直前に赤い州や青い州ではなく、「揺れる州」で国内テロや銃乱射事件が発生した場合、トランプ候補は国内の安全保障に関して、クリントン候補とオバマ大統領が弱腰だと批判を一層強めるのは間違いありません。仮に、投票日1カ月前の10月に揺れる州で起きると、それが選挙戦に多大な影響を与える「オクトーバー・サプライズ」になります。これまでトランプ候補のテロに対する強硬策に対して疑問視してきた有権者がそれを「正」と捉えるようになるかもしれません。「オクトーバー・サプライズ」が有権者にパラダイムシフト(ものの見方の転換)を引き起こすのです。その時、クリントン候補は正念場を迎えることになるでしょう。


  
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