この熱き人々

2016年7月20日

»著者プロフィール
閉じる

吉永みち子 (よしながみちこ)

1950年、埼玉県生まれ。85年、『気がつけば騎手の女房』で大宅壮一ノンフィクション大賞を受賞。著書に『母と娘の40年戦争』(集英社文庫)、『怖いもの知らずの女たち』(山と溪谷社)、『試練は女のダイヤモンド』(ウェッジ)などがある。

 「後ろめたさを感じながら見ないようにして忘れていく。小説家のカンのような、ある種の幻想かもしれませんが、そんな人々の意識の根底には、自分たちも結果を出さなければ被災地のように忘れ去られ、置いてきぼりにされていくのではという不安があるのではないか。重いもの、つらいもの、暗いことを口にすると、自分たちも同じ目にあうのではという強迫観念が、日本中に生まれているのではないかと思えてきた」

 悲しい人を見ないという根底に、そこを切り捨てなければ自分たちが生きていけないという現実があるとするならば、それは本当に豊かで美しい国が目指す方向なのだろうか。震災の衝撃の中で一瞬満ちたやさしさや、深い反省や内省の姿勢にもう一度向き合えないのかという思いが、天童の中に強くなってきたのだという。

 「失敗してもいい。弱音を吐いてもいい、結果をすぐに出せなくてもいい。それでも側に誰かがいてくれる社会に戻るための可能性を求め、奇跡的にそれを示せるのは、小説の仕事ではないのか。そう思った時、震災を書くべきだと決めました」

福島県の帰還困難区域を何度も歩き取材した

小説にしかできないこと

 かくして『ムーンナイト・ダイバー』が生まれた。日本語にすると月夜に潜水する者。場所は明確にされていないが、明らかに福島の海。暗い未来を抱えた立ち入り禁止の海の底に、あの日行方不明になった人たちの大切なものを拾い上げてくるために、月の光を頼りに潜るしかない非合法の潜水者。

 「東日本大震災の特徴は何だろうと考えた時、あらゆる人間の死は等しいという観点で『悼む人』を書いた人間にとって、それは死者の数ではない。行方不明者が2500人以上もいるということと、原発事故による放射能の広範かつ長期にわたる被害によってつらい思いをする人がこれからも生まれ続けるということの、2つなのだろうと思いました。陸からは報道カメラが入り、空からはヘリでの空撮も実際にできる。それなら帰還困難区域の汚染されているかもしれない海に潜って、海の底にさらわれた人や町をすくい上げてくるという設定は小説にしかできない。それが、書かなければというモチベーションになりました」

関連記事

新着記事

»もっと見る