韓国の「読み方」

2016年6月29日

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澤田克己 (さわだ・かつみ)

毎日新聞記者、元ソウル支局長

1967年埼玉県生まれ。慶応義塾大法学部卒、91年毎日新聞入社。99~04年ソウル、05~09年ジュネーブに勤務し、11~15年ソウル支局。15~18年論説委員(朝鮮半島担当)。18年4月から外信部長。著書に『「脱日」する韓国』(06年、ユビキタスタジオ)、『韓国「反日」の真相』(15年、文春新書、アジア・太平洋賞特別賞)、『韓国新大統領 文在寅とは何者か』(17年、祥伝社)、『新版 北朝鮮入門』(17年、東洋経済新報社、礒﨑敦仁慶応義塾大准教授との共著)など。訳書に『天国の国境を越える』(13年、東洋経済新報社)。

「凡庸な三代目」にはあらず

 今年5月に開かれた36年ぶりの朝鮮労働党大会でも目を引いた点がある。
金正恩氏は開会の辞で「世界の社会主義体制が崩壊し、帝国主義連合勢力の反社会主義的攻勢がわが共和国に集中した前代未聞の試練の時期、わが党と人民は帝国主義連合勢力に単独で立ち向かって闘わざるを得なかった」と語った。冷戦終結で社会主義圏が崩壊したため、北朝鮮が孤立に追い込まれたことを認めているのだ。

 さらに、活動報告という演説では「わが国は政治軍事強国の地位に堂々と上ったけれど、経済部門はいまだ相応の高みに至ることができずにいる」と、経済部門の不振を認めた。

 党大会では「国家経済発展5カ年戦略」も打ち出された。金日成時代には「5カ年計画」などとなっていたが、「計画」としてしまうと数値目標を出さないといけない。達成できるかどうか分からないという現実的判断をして「戦略」というあいまいな言葉を使ったのだろうと見られている。かなり現実主義の匂いがするのである。

 5カ年戦略については、6月29日の最高人民会議で各部門の代表が報告を行った。ここでは、自分の持ち場に与えられた目標達成状況について「この部分はうまくいっていない」という報告のオンパレードとなった。そして、そのことが「労働新聞」を通じて公表された。

 報告では、副首相兼化学工業相や国土環境保護相といった閣僚が目標を達成できていないと表明。国家科学技術委員会の委員長は「戦略的集中性を保障することができなかったため、電力工業部門で発電設備の効率を高め、電力の途中損失を減らすことから提起される科学技術的諸問題を円満に解決することができずにいる」と認めるといった具合だ。地方代表からは、昨年は干ばつ被害を防ぐ対策を十分に取れなくて穀物生産に支障をきたしたという発言もあった。

 金正恩氏は一方で、外部からの支援を受けなくても自力更生でなんとかしろという意味の「自強力」を強調したり、従来型の労働動員である「○○日戦闘」も展開したりしている。だから、非常に合理的な指導者だと言いきることはできないのだが、「世襲の凡庸な三代目」というイメージとは距離があると考えた方がよさそうだ。

「北朝鮮崩壊論」に現実味はない

 私は2004年に毎日新聞のコラム「記者の目」に、「北朝鮮報道を考える 『単純な結論』はよくない」という原稿を書いた。米韓両国だって拉致問題に向ける視線は日本とだいぶ違う、北朝鮮のことを嫌いだからと単純な結論に飛びつくのはよくないという趣旨だった。この記事には少数の好意的な(短い)投書と、多くの長文の批判投書をいただいた。北朝鮮というテーマは感情的な受け止め方をされやすいのである。

 感情的アプローチの最たるものが「北朝鮮は近いうちに崩壊する」という北朝鮮崩壊論だろう。北朝鮮崩壊論は1980年代から語られ始め、1994年の金日成主席死去後に勢いがついた。金正日体制が1990年代後半の苦境を乗り切ったことで沈静化したものの、2011年の金正日総書記死去後に再び勢いを増した。

 この問題については、安全保障問題で特集を組むことの多い雑誌「インテリジェンスレポート」が今年5月号で「『北朝鮮崩壊論』を検証する」という特集を組んでいた。崩壊論が語られてきた歴史や背景を検証するとともに、経済や軍事といった側面から崩壊論が妥当かを検証する興味深い内容になっている。

 専門家で早期崩壊論に与する人は、まずいない。北朝鮮の軍事に詳しい聖学院大の宮本悟教授は「『北朝鮮崩壊論』は、朝鮮半島統一のために北朝鮮が崩壊して欲しいという願望」だと断じ、軍事クーデターが起きる可能性が極めて低いことを論じる。

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