2024年4月25日(木)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2016年7月4日

危険を冒せなくなりつつある中国

 蔡へのアプローチも、中国には新たな発想がないことを示唆している。習は蔡が「92年コンセンサス」の受け入れを拒めば、「大地は動き、山々は揺れる」と威嚇した。ただ、その一方で、習はシンガポールまで出向いて馬総統と会っており、中国にとって台湾統合がいかに重要であるかを改めて示している。

 中国は、今年1月以来、お決まりの経済的、外交的強圧手段をとり始め、台湾との外交的承認争いを再開し、ケニアに圧力をかけて詐欺容疑の台湾人を中国に送還させ、蔡の総統就任直前には台湾の対岸で軍事演習を行った。中国人観光客の数も大幅に減った。

 一方、蔡は現状維持の公約を守るべく、就任演説では、いわゆるコンセンサスに関する会合が1992年にあったという「歴史的事実」は認めたものの、「一つの中国」というフィクションは認めなかった。自分を支持してくれる台湾の独立派と中国の両方を宥めようとして、どちらが望むものも与えなかったことになる。

 結局、現状では、香港が台湾から学んでいるようで、香港でも小規模ながら独立運動が生まれている。しかし、中国は香港、台湾双方について方針を変えようとせず、蔡の演説に対しては、関係断絶で脅し、彼女自身をけなす対応に出た。ただ、具体的なことは言っていない。これが、中国は香港や台湾の人々の心をつかむ最善の道は自らが魅力的な国になることだと中国が気付いたことを意味するのなら心強いが、実情は、中国は国内外であまりにも多くの問題を抱えているため、今は台湾海峡で新たな危機を招くような危険は冒せないということだろう。

出 典:Economist ‘Rocking boats, shaking mountains’ (May 28-June 3, 2016):
http://www.economist.com/news/china/21699480-bewilderment-china-neither-hong-kong-nor-taiwan-seems-want-follow-its-script-rocking

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 中国の台湾および香港に対する政策は行き詰まっており、中国は、これら地域の人心を掴むことに苦慮している、とエコノミスト誌が述べています。実体は、この論説の言うとおりであると思われます。

 中国は、目下、内外に多くの問題を抱えていますが、中でも、中国の言う「核心的利益」の筆頭である台湾ならびに香港については、決め手となる対策を打ち出すことが出来ません。台湾では、蔡英文新政権は「一つの中国の原則(92年コンセンサス)」を受け入れませんし、香港では、最近、香港を訪れた張徳江は抗議デモに取り囲まれました。


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