風の谷幼稚園 3歳から心を育てる

2010年1月7日

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野村 滋 (のむら・しげる)

株式会社コンテンツ・ファクトリー代表

情報誌会社勤務時代に取材で、創立間もない風の谷幼稚園と出会う。その後12年間、風の谷幼稚園の変遷を追い続けている。風の谷幼稚園の教育実践記『4歳の胸のうち』『5歳の誇り』を同社から出版。

「変!」
それに対し、「どこが? 何が?」と2人。
「顔の形。足も。耳も」
これまで、4人の中でも“こうしたい”と意見を言うこともなく、かなづちの順番も待つことが多かった颯くん。そんな颯くんからの意見だったので、さらに詳しくどこが変だと思うのかを聞き、「3人でどうするか考えて作り直してみたら? 颯くんも今みたいに仲間にどんどん言った方がいいよ。4人のどうぶつなんだから」と声をかけ、遠くから様子を見ることにしました。
しばらくすると、
紗耶:「ここなの!」
颯:「違う!」
と紗耶ちゃんと颯くんの言い合い。どうやら「ここだ!」と思う耳の位置がお互い違うようです。颯くんは、ほかにも背中に肉が付きすぎていることが気になるようで、「こんなに付いてないよ」と粘土をはがしはじめます。
そして次は足の形。ボテッとたくさん付いた肉を少しずつ取りながら、「ここは細いの」と形にしていく颯くん。その姿を見て、はじめは「なんではがすの~!?」と困り顔をしていた2人も、「颯くん上手だね。本物みたいだね」と認めていくように変化していきました。
そしていよいよ「先生ー! 颯くんも出来たって!!」との声が。「うわぁ、本物みたいだね。今にも走り出しそう! 仲間みんなで作るとこんなすごいのが出来るんだね!!」そう声をかけると満足そうにうなずく3人なのでした。                                   鳥1組 学級通信 「おおばこ」より

 密着レポート第11回第12回で紹介したように、すでにこの時点で子どもたちの中には「基準を持ち自分で判断する」という感覚が育てられている。そして、第13回でご紹介したように、この活動に先駆けて子どもたちは動物園見学に行き、自分なりの「動物の本当の姿」を基準として持っている。このエピソードは、颯くんが自分なりの基準に従って自分の意見を仲間にぶつけ、仲間たちは最初は戸惑いながらもそれを受け入れた、ということを示している。この建設的な意見のぶつかり合いと行動を経て、子どもたちは「みんなでひとつの目標を達成する」ということの大変さや素晴らしさを体で覚えていく。

 実は風の谷幼稚園がこのカリキュラムで一番大切にしているのは、まさにこのプロセスを経験させることにある。

同じ目標に向かって行動を共にすることが、「心を通じ合わせること」につながると、風の谷幼稚園では考えている。

 つまり、ある目標に向かって行動を共にする過程において、自分の思いを相手に伝え、相手をより深く理解し、関係を深めていけるような本当の意味での社会性を育てることが一番の教育意図だ。活動の成果としてすばらしい「大型どうぶつ」ができあがるのだが、極端な話をすれば、この成果は二の次である。

 これは「人と心を通じ合わせることができれば人生は豊かになる」という風の谷幼稚園の価値観(密着レポート第6回参照)にもとづく教育の柱であり、「この実現に向けて大切なことは何か?」という問いに天野園長は迷うことなく「人間がわかりあえるというのは、結局は行動を共にすること」と答える。

 同じ幼稚園で、同じ時間にお弁当を食べたり、同じ砂場で遊んだり、同じ場所に散歩にいったりしても、そこで生まれるのは緩やかな連帯感であり、これだけでは「人と心を通い合わせる力」は育たない。同じ目標に向かって行動を共にし、その過程で摩擦を味わいながらも、仲間と一緒に目標を達成したときにこそ「人と人との心がつながるとはどういうことなのか」を子どもたちが体感できると考えているのである。

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