2024年4月25日(木)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2010年1月6日

 しかし筆者の考えでは、それを字面通りに受け取ることは出来ない。何故なら、今の中国では「和諧」というスローガンすら、国際社会に対する鬱屈の裏返しとしての自己主張と結びついているかも知れないからである。

妥協と歓迎 一貫性のない中国共産党

 そもそも過去十数年来、外部の人間が中国の台頭ととともに見届けてきたのは、中国が国富を得れば得るほど、表向きの「和諧」と「安定」を取り繕うため、有形・無形の強制力に巧妙と徹底の度が加えられてきたという事実である。

 1989年の六四天安門事件では、人民解放軍の戦車が学生を押し潰す光景が限りない負の印象を流布した。そこで中国は、軍隊ではなく武装「警察」の名における最新鋭の戦車を揃え、チベットやウイグルの無辜の人々を威圧したことは記憶に新しい。メディアが「軍」ではなく「警察」による鎮圧であると伝えれば、印象としては「相対的に良い」からこそ中国はこのような組織を作ったのだが、実態としては彼らが「党と国家に敵対している裏切り者である」と見なした存在に対しては情け容赦なく弾圧を加えることには全く変わりはない。

 ちなみに毛沢東時代以来このかた、ある問題が「人民内部の矛盾」と見なされれば穏健な解決が図られるが、「敵対矛盾」と見なされれば中国共産党は如何なる妥協もしない。その判断基準は社会通念ではなく、あくまでその時々の共産党の都合による。だから資本家が「人民の敵」として凄惨な迫害に直面するかと思えば、資本家が「中国の先進性を代表する」という理由で共産党に迎えられもする。歴史と社会への認識の一貫性ほど中国共産党と疎遠なものはない。

凄まじい中国の言論統制

 いっぽう、無形の強制力といえば、メディアやネットへの締め付けが最たるものであろう。一般社会に流布する報道には全て共産党宣伝部が眼を光らせていることは言うまでもない。訪中したオバマ大統領の指名で、中国で最もリベラルな新聞のひとつである『南方週末』のインタビューが実現したものの、いざ新聞が発行された時には巨大な白紙となり、「これが中国の現実だ」という新聞社側の最大限の抗議が小さく印字されたという事件は記憶に新しい。

 オバマ氏は、訪日と比べて異様に時間をかけた訪中の際、万里の長城に登って「中国史の偉大さ」に感嘆し、「二大超大国」のひとつにして米国債の得意先でもある中国へのリップサービスに余念がなかった。しかし、彼はいやしくもノーベル平和賞受賞者である。モンゴルなど北方民族への恐怖心から延々6000kmも築かれてしまった長城とは、本質的に「臭いものには蓋をせよ」という閉鎖性の象徴であり、ベルリンの壁と同じ性格のものであるに過ぎない。したがってオバマ氏は長城を眼にしたとき、今も中国の人々が党・政府の作為的な言論統制の長城の内側に閉じ込められていることを先ず思うべきであった。しかしその後もオバマ氏は、中国の政治改革の必要性を説く「08憲章」の起草者である劉暁波氏が「国家政権転覆煽動罪」に処せられ、まさしく壁のさらに内側の壁に隔てられ続けていることに対して見て見ぬふりを続けている。

 言論統制の長城といえば、ネットレベルでの不平不満に対するネット警察の森厳ぶりもここにきて際だっている。例えば最近はYouTubeはもとより、日本の代表的なホームページ・サーバの一つであるジオシティーズにも、中国からアクセスすることは出来なくなった。新疆ウイグル自治区に至っては、昨年7月のウルムチ事件以来、インターネットや国際電話網から完全に隔絶され、情報化社会にあって北朝鮮を笑えない「砂漠の絶海の孤島」と化した(新年から『新華網』『人民網』の閲覧が可能になったようだが、「大本営発表」である新華社・人民日報社の報道が一般の人々の興趣をそそるとは言えない)。


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