BBC News

2016年7月7日

英国のイラク戦争参戦とその後の経緯を調べる独立調査委員会(チルコット委員会)は6日、当時のブレア政権(労働党)がイラクのサダム・フセイン大統領の脅威を過剰に表現し、準備不足の英軍部隊を戦地に送り出し、戦後の計画は「まったく不十分だった」という見解を発表した。委員長のサー・ジョン・チルコットが記者会見で明らかにした。

独立調査委による7年間の調査にもとづく報告書を発表したチルコット委員長は、2003年3月の時点ではフセイン大統領からの「切迫した脅威」はなく、国連安全保障理事会の大多数が支持していた封じ込め政策の継続は可能だったと指摘。政府が得ていた機密情報は武力行使の正当な根拠となるには不十分で、外交手段を尽くしてもいなかったと批判した。

「イラクの大量破壊兵器は深刻な脅威だと言われたが、そこまで確信的に断言するにふさわしい正当な根拠はなかった。明確に警告されていたにもかかわらず、侵略がもたらす悪影響は過小評価された」とチルコット委員長は述べた。

発表後に記者会見したトニー・ブレア元英首相は、不正確な情報に基づく準備不足や作戦遂行の不手際について謝罪したが、参戦の判断については「間違っていたとは思わない」と謝罪しなかった。

2003年3月に始まったイラク戦争では、戦争そのものは約6週間で終わり、25年続いたサダム・フセイン政権は崩壊したが、これを機に激しい宗派間対立が勃発した。

英軍関係者および英国人179人が死亡し、介入を主導した米国は軍関係者4487人を失った。一方でイラク人の死者数は、9万人から60万人以上とも言われている。

能力の過大評価、判断ミス、準備不足

元公務員のチルコット委員長が率いるイラク調査委員会は、イラク戦争は「ひどい展開」になった海外介入で、その影響は現在に至って世界情勢に響いていると指摘した。

12巻260万語におよぶ報告書は、ブレア元首相や当時の閣僚たちが国際法に違反したかどうかには言及していない。しかし外交と軍事の政策決定に重大なミスが続いたと列挙している。その一部は次の通り――。

・英軍司令官たちは自軍の能力を「過大評価」したため、「判断ミス」につながった

・イラク派遣のため3旅団の準備を十分に整えるための「時間が不足」していた。閣僚に対して派兵リスクを「適切に特定し、十分に開陳」することもなく、このため「装備不足」の事態になった。

・誤った情報分析をもとにイラク侵攻が決定したが、政府内でその内容が問いただされることはなかった。

・ブレア氏は、イラクについて自分は米政府の判断を左右できると自らの影響力を過大評価していた。英米関係は、英国が米国を無条件に支えることが前提だと思い込んでいた。

元首相は時に揺れる声で

チルコット報告書の発表を受けて記者会見したブレア元首相は、時に感情で声を揺らしながら、イラクに英軍部隊を投入するという判断は「首相としての10年間で最も困難で重大な判断だった」と述べ、その決定の重みは「今後終生、抱え続けるものだ」と付け足した。

約2時間に及ぶ記者会見で元首相は、「この国の軍だろうが外国の軍だろうがイラクの人たちだろうが、イラクで愛する人を失った人たちの悲しみと無念は、とても言葉にできないほど深く痛切に感じている」と述べ、「開戦当時の情報分析は、結果的に誤っていた。戦後の状況は、予想をはるかに超えて敵対状況が激しく、流血にまみれて、長く続いた。(略)我々はイラクの人たちをサダムの悪政から解放したかったのだが、その国は代わりに宗派対立によるテロリズムに苦しむようになってしまった」と認めた。

「こうしたことのすべてについて私は、皆さんが決して味わうことも信じることもない、とてつもない悲しみと無念と謝罪の気持ちを表したい」と元首相は述べた。

その一方でブレア氏は、2003年3月にイラク戦争に参加すると決めた判断そのものについては、誤りではなかったと繰り返した。

「嘘は何もなかった。下院と内閣をミスリードしてもいない。秘密裏に開戦の約束を交わしたわけでもない。機密情報の改ざんはなかったし、誠実に判断を下した」と元首相は述べ、イラク戦争で死傷した人たちの犠牲は「無駄だったなどいう意見には決して同意しない」と強調。犠牲者は「世界各地で命を奪い、地域社会を分断するテロリズムと暴力に対抗するための、21世紀を形作る世界的な戦い」に貢献したのだと述べた。

フセイン政権の大量破壊兵器をめぐる情報は確かに「結果的に間違っていた」と認め、確かに戦争によってイラクは不安定化したと認めつつも、介入しないと判断したシリアの現状と比較して、首相は「サダム・フセインがいなくなった」現在の状態の方が、何もしなかったよりははるかにましだと確信していると強調。

では何について謝罪しているのかと繰り返し質問されたブレア氏は、「命を失った人たちに追悼の意を表し、誤りについて遺憾と謝罪の意を示すことと、判断そのものは正しかったと今でも確信していると言うことに、何の矛盾もない。そこには何の矛盾もない」と述べた。

今の労働党党首は謝罪

報告書の発表を下院に報告したキャメロン首相は、「未来に向けて教訓を学ぶ」ことの重要性を強調。政府内手続きや法律顧問の助言の取り扱い方の刷新などが必要だと述べた。キャメロン氏は2003年当時、保守党議員として武力行使に賛成票を投じている。

キャメロン首相は議会で、「適切な装備もなく勇敢な兵士たちを戦地に送り込んだことは、容認しがたい。この紛争からは様々なことを学ぶが、特にこんなことが二度とあってはならないと、われわれ全員が誓う必要がある」と、軍事作戦遂行にあたっての手続きの改善を約束した。

これに対して、2003年に労働党議員として参戦に反対票を入れたジェレミー・コービン労働党党首は下院を前に、チルコット報告書はイラク戦争が「誤った前提をもとに行われた軍事侵略行為だった」ことを証明していると非難。「圧倒的な国際世論はかねてから(イラク戦争を)違法だとみなしてきた」と指摘した。

死亡した英国兵たちの遺族と下院演説後に対面したコービン氏は、「自分の党を代表して、戦争に参加するという惨たんたる決定を、心よりお詫びします」と謝罪した。

コービン党首は「軍事侵略の罪を負うべき人々を訴追する権限」を国際刑事裁判所に与えるよう、英国政府も協力すべきだと促した。

2003年から2009年にかけてイラクで死亡した英国人179人の一部遺族は代理人を通じて、自分たちの愛する家族は「死ぬ必要がなかったのに、正当な意義も目的もないまま」死んだと声明を発表。「もし司法手続きが可能ならば」、チルコット報告書が指摘する失態に責任を負うべき人々には「法廷で弁明してもらいたい」と、提訴も視野に入れていることを示唆した。

ブッシュ前米大統領のコメント

ジョージ・W・ブッシュ前米大統領の広報担当フレディー・フォード氏はBBCニュースに対して、「ブッシュ大統領は本日、自宅の牧場で負傷兵たちを歓待しており、まだチルコット報告書を読むことができずにいる」と断った上で、「不正確な情報やその他の過ちはこれまでも認めてきた。その上でブッシュ大統領は今なお、サダム・フセインが権力を握っていない今の状態の方が、全世界にとって良いことだと信じている」と述べた。

「(ブッシュ氏は)対テロ戦争を戦う米軍と連合各国の軍の奉仕と犠牲に深く感謝している。トニー・ブレア首相率いる英国ほど、強力な同盟国はほかになかった」

「ブッシュ大統領は、それがどこだろうと過激主義と戦い続けて打倒するため、我々が今も団結して決意を強くしなくてはならないと信じている」

遺族は「無駄死に」と

チルコット委員長は、今回発表する報告書を通じて、イラク戦争で家族を失った人たちの疑問がいくらかでも解消されることを期待すると話した。

一方で、トム・キーズさんを21歳の誕生日の4日前にイラクで失った父親のレジさんは記者会見で、自分の息子は「無駄死にした」と述べた。

2006年にパトロール中に撃たれて死亡したリー・ソーントン砲撃兵の母キャレンさんは、BBCラジオに対して、ブレア氏が嘘をついたと証明されるなら戦争犯罪で訴追してほしいと述べた。「嘘をついた人たちは責任を問われるべきだ。あまりに大勢の命を奪った責任がある」。

(英語記事 Chilcot report: Tony Blair's Iraq War case not justified)

提供元:http://www.bbc.com/japanese/36732246

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