世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2016年7月11日

»著者プロフィール

 ワシントン・ポスト紙のディール論説副編集長が、5月29日付同紙にて、人権状況の改善がないにもかかわらず米国はエジプトへ装甲車を無償供与した、と批判しています。要旨、次の通り。

人権問題の改善という条件はなし

4月、ケリー米国務長官と会談したシシ大統領(GettyImages)

 5月に、米国はエジプトに対する耐地雷伏撃防護車両(MRAP)762台のうちの第一回目の供与を行った。これはオバマ政権による対エジプト軍事援助13億ドルとは別枠である。オバマ政権は人権問題の改善を供与の条件とする考えは受け入れなかった。オバマ政権はシシ政権に対してこの防護車両が「第四世代戦争」にいかに組み込まれるのかにつき公に説明することを求めるべきだ。

 第四世代戦争とは、シシがかつて軍幹部学校で説明したところによれば、近代通信手段、心理学とメディアを使ってエジプトの内部分裂を図るものだとされている。エジプトの軍部によれば、この戦争での敵は米国だとされる。3月にエジプト国防省が行った対議会ブリーフでは中東の分裂を謀る西欧の計画についても話があったと言われる。

 政府側の宣伝関係者はもっと直截的である。エジプトの多くのNGOは第四世代戦争によって国を崩壊させようとたくらんでいる、2011年の民衆運動は実はイスラエルの利益のためにエジプトを破壊しようとした米の陰謀だった、それは「ユダヤの春」だった、などと述べている。

 一部の人はこれを無害な反米レトリックだと見做すかもしれないが、それは間違いだ。軍が動いているのだ。軍は米国が支援するNGOへの攻撃に乗り出している。3月に検察は人権団体に対する2011年の訴追を再開し、これら団体の指導者の海外渡航を禁止するとともに彼らの個人財産の凍結を裁判所に求めた。

 シシ政権は、米国の人権団体のエジプトでの活動を止めさせ、スタッフの国外退去を求めたり、訴追しようとしている。

 ISなどイスラム過激派と戦っているとするシシが人権活動家や報道関係者、左派政治家を訴追しようとしているのは第四世代戦争と戦おうとしているからで、この戦争の究極の敵はスンニ過激派ではなく米国率いる西側の自由主義だ。

 エジプト軍はISと戦うために戦車や耐地雷防護車両やF16を使うが、他方で軍の諜報や訴追をカイロにいる米国の活動家に向けている。オバマ政権がこれらの政策に反対するとか軍事援助が悪影響を受けない限り、これらの政策は何の矛盾もない。実際オバマ政権は対エジプト軍事援助に対する人権などの条件を撤廃するよう議会に求めている。

 エジプトの軍事政権を支持することは米エジプト関係を壊すことになっている。民主主義、人権、米国との同盟関係を支持する世俗派の支持者達が弾圧されている。他方でエジプト国民には米国はエジプトの分断、破壊を図っているとの宣伝が吹き込まれている。米国から見れば、最大規模の軍事援助の見返りがこんなものかということになる。

 私(ディール)の知るエジプトの活動家は次のような忠告をする。平和的反対運動の弾圧や報道陣の訴追、NGOの閉鎖などを止めさせることができないのであれば、少なくとも、シシに「米国はエジプトを破壊しようとはしていないし、第四世代戦争とは無関係である」と宣言させるべきだ。これは762台の防護車両無償供与の見返りとして過大な要求ではない。

出典:Jackson Diehl,‘America gives Egypt free armored vehicles. Egypt gives America a slap in the face.’(Washington Post, May 29, 2016)
https://www.washingtonpost.com/opinions/america-gives-egypt-free-armored-vehicles-and-money-egypt-gives-america-a-slap-in-the-face/2016/05/29/b4f5376c-235b-11e6-8690-f14ca9de2972_story.html

関連記事

  • PR
  • 新着記事

    »もっと見る