世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2016年7月13日

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 ブルッキングス研究所上級フェローのアインホーンが、6月2日の同研究所のサイトで、イラン周辺国が核武装したり、核兵器能力を取得する可能性は当面ない、と述べています。論説の趣旨は、以下の通りです。

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最も核武装の動機があるサウジ

 イランの核合意に関して、イランが合意を守るのか、合意期間後イランが大規模な濃縮活動を行うのではないかと言った疑問が提示され、イランの周辺国が核武装する恐れがあるのではないかとの見解が見られるが、イラン周辺国のうち、核武装の可能性があると言われる4か国の事情は以下の通りである。

 最も核武装の動機があるサウジアラビアは、イランを地域の宿敵と考えており、他方安全保障で米国に頼らざるを得ないことを知っている。サウジは核武装のための資金は十分持っているが、自らの核計画を実施するための人的、物理的インフラを得るには何年もかかる。核武装のためパキスタンに頼るとの憶測がある。確かにパキスタンは自身の核武装に際し、サウジから寛大な資金支援を受けた。パキスタンがサウジの核武装を支援すると約束したとのうわさは絶えないが、それは多分何年も前の具体的細目を欠く口頭の保証だったのだろう。

 アラブ首長国連合(ア首連)は、サウジ同様、イランを脅威と考えるが、サウジ同様、結局は米国との安全保障の結びつきを危険にさらしたくない。その上、ア首連は韓国の支援を受けて4基の原発を建設しようとしている。核武装すれば原発計画が水泡に帰すことを知っている。また、米国との原子力協定で濃縮と再処理能力は取得しないことを約束している。

 エジプトは、ナセルの時代に核武装を考えたことがあるが、イランを直接の軍事的脅威とは考えていない。エジプトの関心事は、シナイ半島の過激派の活動、イラクとシリアの分断、リビアの混乱であり、これらが国内の治安に及ぼす悪影響である。しかしこれらの問題が核武装で対処できるものではないことは知っている。

 トルコは、過去10年、技術力・経済力をつけ、地域で影響力のある国になる野心を持っていることから、トルコも潜在的核武装国であると考えられている。しかし、トルコとイランとの関係は悪くなく、トルコはエジプト同様、イランを直接の軍事的脅威とは考えていない。トルコの安全保障にとっての主たる関心は、シリアの紛争のもたらす不安定とテロであり、核兵器はこれらの懸念に対処するのに適当とは考えられない。2015年11月のトルコによるロシア戦闘機撃墜事件で、ロシアとの緊張が高まっているが、トルコは、NATOとの関係は紆余曲折あったが、危機に際してはNATOに頼れると考えており、核武装でNATOとの関係を危うくしようとはしないだろう。

 その他のイラク、リビア、シリアは、過去に核武装を試みたことがあったが、現状ではとても試みるのは無理だろう。

 結論として、イランの核合意の結果、中近東諸国が核武装の選択肢を考えるインセンティブが著しく減った。少なくとも当面、核兵器や核兵器能力を追求しようとする国はないだろう。

出 典:Robert Einhorn ‘Iran’s regional rivals aren’t likely to get nuclear weapons—here’s why’ (Brookings, June 2, 2016)
http://www.brookings.edu/blogs/markaz/posts/2016/06/02-proliferation-risks-middle-east-einhorn

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