2024年4月26日(金)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2016年7月13日

 アインホーンは、イラン周辺国で核武装の可能性が考えられうる国として、サウジ、ア首連、エジプト、トルコを挙げましたが、このうち可能性があるのは、アインホーン自身が述べているように、サウジだけです。サウジの核武装の可能性は、イランとの核交渉以前から話題とされています。

 2011年、サウジのトゥルキ・ファイサル王子(元駐米大使)が、リヤドで行われた安全保障会議で、「イスラエルとイランからの核の脅威に晒されている今日の状況が続くのであれば、サウジとしてもやむなく両国に倣わざるを得ないかもしれない」、「核兵器の保有を含むすべてのオプションを検討することが国家と国民に対する我々の義務である」と述べたと報じられました。

 2013年には、BBCがNATO高官の話として、サウジのためにパキスタンの核兵器がいつでも引き渡せる状態にあると報じ、パキスタンは「根拠がない」と全面否定し、サウジは否定はしなかったと伝えられました。

 本年1月には、ケリー国務長官が「サウジは核兵器の購入が、彼らの安全を高めることなどないばかりか、頭痛の種になることを知っている」、「サウジはNPTを尊重すべきだ」と述べたと報じられました。サウジが、イランの核の脅威を念頭に、核武装の選択肢を考えても不思議ではありません。しかし、サウジの核武装のシナリオは描きがたいものです。

残された選択肢

 まず、サウジは、核兵器物質を作る濃縮、再処理の技術は持っておらず、自前で開発するには何年かかるか分かりません。その上、濃縮、再処理は、核拡散防止上機微であるとして、原子力供給国グループのガイドラインで、その資機材、技術の供給が禁止されていますので、他国からの導入は極めて困難です。

 残された選択肢は、時に指摘されるように、パキスタンから核兵器を導入することですが、いくらパキスタンが自らの核開発でサウジから寛大な資金支援を受けたからと言って、核兵器は他国に渡せるようなものではありません。たとえ渡したとしても、核兵器がサウジに渡った後の管理の責任も取らなければなりません。またサウジは、イランに対し抑止の効果を上げるためには、核兵器を取得したことを公にしなければならず、その場合はNPTの脱退や、米国との戦略的決別も覚悟しなければなりません。この選択肢の政治的、物理的リスクはあまりにも大きいと言わざるを得ません。

 したがって、サウジは、イランとの対抗上折に触れ、核武装をほのめかすかもしれませんが、その可能性はまず考えられないと言ってよいでしょう。

  
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