2024年4月25日(木)

母子手帳が世界を変える

2016年8月18日

 なぜ、母子手帳を受け取ることで、妊婦健診の受診率が高まるのだろうか。母子手帳にはどういう意味があるのだろうか。こういったことに関して、研究に協力してくれたモンゴルや日本の専門家、そのほか広く関係者と討議してきた。

 母子手帳の特徴は、

 1) その家族固有の情報が入っており、

 2) 同じその情報を医療側と家族が共有し、

 3) その情報は家族が保有している
ということになる。

 個々の家族によって、健康の情報は当然異なる。母子手帳には、どの家族でも共通の一般的な情報も含まれるが、何よりも「わたし」の妊娠や子育て情報がかかれている。母子といったひとくくりではなく、自分の名前で呼ばれるのと同じように、固有の情報に基づき、医療や健康に関する方針が決められることは、その家族の医療や健康制度へのかかわりをより深めることになる。

村の医療センター

医療の受け手の能動的役割を高める

 その同じ情報が、医療側と家族側で透明性を持って共有されているということは、市民(家族)側のサービス提供側(医療)への信頼を格段に増すことになる。意思決定の共有(shared decision making)ということが言われ始めて久しいが、我が国の母子保健には自然とこういった文化を醸成する仕掛けを持っていた。

 そして、「わたし」にとっての固有の健康情報を、医療従事者や制度側と共有しつつ、最終的に保持しているのは、市民(家族)側であるというもの、医療の受け手の能動的役割を、自然に高めることになる。

 発展途上国において今後最も重要なのが、未来を担う女性や子供たちが自ら制度に積極的にかかわり、責任と権利を強く意識していくことである。母子手帳は、実は、このための自然で効果的なエンパワーメント・ツールであることがわかる。

 国という枠組みではなく、一人一人の個人という観点からの安全保障、すなわち「人間の安全保障」という言葉に、これほど似合うツールはない。
 

  
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