2024年4月20日(土)

解体 ロシア外交

2016年7月12日

スポーツが政治に利用される悪しき慣習

 ここで問題視されたのは、ロシアサポーターによる暴力が高度に組織化されていたということである。しかも、このような組織化された暴力行為はロシアの文化の一つのようになっていて、ロシアのフーリガンはしばしば極右政治や組織犯罪に結びついているというのである。さらに厄介なのは、ロシア政府が間接的に、ないし、あからさまに国粋主義を煽り、そのような暴動を支持しているということであった(『フィナンシャルタイムズ』6月15日)。

 また、ロシアのフーリガンによる暴動は、プーチンの西側に対する「ハイブリッド戦争(従来の戦闘方式に、非軍事的手法を組み合わせた21世紀型の戦争)の一つだ」と見るような見解もある2

 ソ連、そしてソ連の継承国家であるロシアにとって、スポーツは歴史的に、国威発揚を図るとともに、欧米に並ぶ「大国」であることをアピールするための重要な手段であった。特にソ連時代は、五輪で獲得するメダルの数こそが、冷戦における東西対決の一つの要素であったと言っても過言ではなく、国家をあげて優秀なスポーツ選手が養成されていた。だが、ソ連解体でロシアは一時、著しく国力を落とし、スポーツに注入する余力もなくなっていたが、プーチン大統領は再びスポーツ振興に力を注ぐようになった。ソチ五輪の誘致もその一つであろう。だが、最近のドーピング問題やフーリガン問題を考えるにつけ、スポーツが政治に利用される悪しき慣習が再び顕著になってきたように思える。

 確かに、ロシア人たちは、自国の選手がドーピングをしているとも知らず、メダル獲得に湧き、選手を心から応援し、誇りに思っていたはずだ。だが、ロシアドーピングの噂は、ソ連時代から最近に至るまで常につきまとっていた。

 またサッカーなどの応援で国民が一つになって盛り上がるのは良いことだが、ロシア政府がフーリガンを組織的に送り込み、さらにフーリガンの行為をハイブリッド戦争の一環として考えているとすれば、スポーツマンシップを大いに冒涜している。

 ロシアが国際社会の一員としてあり続けたいのであれば、スポーツでの勝ち負けより何より、ドーピングなどの不正をなくし、フーリガンなどを根絶することが必要だ。スポーツマンシップあってこその勝利でなければ意味がないことをロシアはもっと早く学ぶべきだった。

2: Paul Goble, ‘Russian Football Louts In Marseilles Part Of Putin’s ‘Hybrid War’ Against The West,” Eurasian Review, June 15, 2016.

  
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