前向きに読み解く経済の裏側

2016年10月3日

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塚崎公義 (つかさき きみよし)

久留米大学商学部教授

1981年、東京大学法学部卒業後、日本興業銀行(現みずほ銀行)に入行。主に調査関連部署に勤務した後、2005年に銀行を退行して久留米大学へ。著書に『増補改訂 よくわかる日本経済入門』(朝日新書)、『老後破産しないためのお金の教科書』(東洋経済新報社)、『世界でいちばんやさしくて役立つ経済の教科書』(宝島社)、『なんだ、そうなのか! 経済入門』(日本経済新聞出版社)など多数。

安売り競争が起きるワケ

 かつて、牛丼チェーン同士が壮烈な安売り競争を繰り広げたことがありました。これも、固定費と変動費を分けて考えると、御互いが合理的に行動している結果であることが理解できます。C店とD店には、それぞれ10席あります。客は10人で、1円でも安い方に行きます。1日当たりの固定費は1000円で、材料費は100円だとします。牛丼が300円で、客が5人ずつなら、平和です。C店もD店も、収入は1500円、固定費が1000円、変動費は500円なので、損得無しです。

 しかし、平和は永くは続きません。C店が牛丼を299円に値下げしたとします。C店の売上げは2990円、コストは固定費の1000円と変動費の1000円ですから、差引990円の利益となります。一方、D店は客がゼロですから固定費の1000円がそっくり赤字になります。

 D店は対抗策として牛丼を298円に値下げします。D店の売上高は2980円に、コストは固定費の1000円と変動費の1000円で差引980円の利益になります。一方、C店は客がゼロですから固定費の1000円がそっくり赤字になります。

 こうして値下げ合戦が始まるわけですが、どこまで続くでしょうか? 理論的には牛丼の値段が変動費プラス1円になるまで続きます。相手が102円で牛丼を売って自店の売上げがゼロになって1000円の損になるよりは、101円で売って990円の損にとどめた方が得だからです。

 牛丼の場合には、他業種から客を奪って来ることができますから、これほどヒドいことにはならないでしょう。たとえば牛丼が200円になれば、ラーメン屋から客が流れて来るかも知れません。それにより両店とも満席になれば、両店とも売上高2000円、固定費1000円、変動費1000円で平和が戻ります。しかし、たとえばガソリンスタンドの場合、他業種から客を奪って来ることができませんから、理論的には変動費プラス1円まで安売り競争が続く可能性があるわけです。

 こうした安売り競争は、固定費が大きく変動費が小さい装置産業ほど熾烈になりやすいと言われています。最近でも、中国の鉄鋼業が熾烈な値下げ競争に走ったため、国際的な鉄鋼市況が崩れて先進国の鉄鋼メーカーも痛い目に遭わされていましたね。

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