2024年4月16日(火)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2010年1月13日

 日本国内でもつい最近、中国政府の代弁者と思しき在日中国人がテレビで、「麻生さんの時代、日本はインドと仲よくして中国を孤立させようとしたじゃないですか!」とヒステリックとも思える語気でまくし立てていた。加えてこの人は、「中国は、東南アジア各国と次々にFTAを結んでいます。これから東南アジアがひとつになるんですよ。日本は一人ぼっちで一体どうやって生きていくんです?」と言い放ち、日本人視聴者の「孤立への危機感」を煽ることも忘れなかった。

 中国側のこうした日本世論への心理戦は近頃、見え見え過ぎて面白くもない。しかし、かくもあからさまにならざるを得ないほどに中国は日印接近を嫌い、かつ、日本という打出の小槌のような国を、中国の側に引きつけておこうと躍起なのだ。

 ちなみに、鳩山首相のインド訪問を伝えた中国の主要メディアは、両国の合意事項を詳細に伝えるのみならず、背景も詳しく説いた。ポイントを以下に整理しておく。

(1)過去、日印関係が必ずしも良好でなかった。印パ戦争時、日本が中立の立場をとったことや、東西冷戦時、日本が米陣営にあったのに対し、非同盟主義を唱えたインドは旧ソ連と近い関係を保ったこと、さらに冷戦後の1998年インドが核実験を強行した際、日本がインドに経済制裁を行なったことを関係発展の阻害要因に挙げた。

(2)(1)のような不運な状況にもかかわらず、第二次大戦後インドの国民感情は一貫して日本に好意的であり、関係発展を求めてきた。

(3)インドにとって日本は、領土や歴史問題といった対立材料がなく、経済力と技術力を有する国だ。近年日本とインドは二国間関係の発展に熱心であり、協力してインド洋のエネルギー補給ルートの確保を図り、国連の常任理事国入りという点では盟友でもある。

(4)日印の経済的な結びつきも近年急速に強まっている。2008~09年度の二国間貿易額は120億ドルに達し、新規投資において日本の対インド投資額が対中投資額を上回った。今やインドは、日本の最大の支援相手国で年間25億ドルの支援金が提供されている。

中印両国から熱烈求愛されている日本

 詳細な背景解説の一方で、中国メディアが所詮「官製メディア」であることが、背景解説に続く結論部分に表れた。今後の日印両国関係の発展は一部の要素に限られ、かつ長年にわたる持続に至らないと断言しているのだ。

 いわく、一人当たりのGDP1000ドル程度のインドは、日本にとって将来にわたって有望市場を提供できず、資源国でもないため、原油などの戦略資源を提供することもできないと結んでいる。そのココロは、「だからインドなんか捨てて中国と仲よくしようよ」という一風変わった日本への「求愛」であり、中国共産党の希望的観測に過ぎないのだ。

 そもそも他国間関係を伝えようという場合、それが短期の限定的なものに終わる可能性が高いのなら、長々取り上げる必要などない。それでも、自国に深刻な影響を及ぼしかねないと見て取り上げるなら、この事態に対して自国政府は如何に取り組んでいるか、というような、自国の外交政策を質す視点で取り上げるのがふつうのメディアというものだ。

 が、そこはやはりジャーナリズム精神からは程遠い、プロパガンダ用官製メディアの悲しき性(さが)。日印関係を妬み呪うかのような「予測」が平然と述べられる。

 せっかくだから、この中国メディアの呪いの「予測」に反論しておこう。まず、インドのGDP総量は中国に遠く及ばないが、それでも着実に成長している。当然のこと一人当たりGDPも、未来永劫1000ドル程度のままではなく、それに連れて個人消費の拡大は必然だから、「将来にわたって有望な市場を提供する」可能性は十二分にある。


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