オトナの教養 週末の一冊

2016年7月15日

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中村宏之 (なかむら・ひろゆき)

読売新聞東京本社調査研究本部 主任研究員

1967年生まれ。91年、慶應義塾大学経済学部卒、読売新聞東京本社入社。福島支局、立川支局、経済部、政治部、ロンドン特派員、米ハーバード大学国際問題研究所研究員、経済部デスクを経て2014年より現職。著書に『世界を切り拓くビジネス・ローヤー』『御社の寿命』、(いずれも中央公論新社)など

 本書を手にして、自分が国境を意識したのはどんな時だったろうかと記憶をたどった。朝鮮半島の38度線の板門店や、中国返還前の香港と中国・深圳の国境、英仏を結ぶ高速列車・ユーロスターに乗る際の出入国検査、アメリカとカナダの国境など、思い返してみると各地で意識することは多かったように思う。中でも板門店は緊張を伴った重苦しい雰囲気だった。欧州大陸のように国境をあまり意識せず、簡単に越えられる場合もある。アメリカとカナダの国境では、係官は丁重な対応だったが、乗っていたレンタカーを入念にチェックされた。

ボーダーを強く意識する「ボーダーレス時代」

『入門 国境学』
(岩下明裕著、中央公論新社)

 本書で初めて「国境学」という学問分野があることを知った。読み進めてみると、それは単に国と国との境という概念だけでなく、壁や面としての広がりがあるものだということもよくわかる。

 かつて世界史の授業で習ったが、世界には、地理的事情や文化的背景を無視して、きわめて人為的に画定された国境もある。中東やアフリカに見られるような直線的な国境はまさにそうしたものであろう。定規で引いたようにまっすぐな国境などはあまりに不自然だが、それもまた歴史の現実である。

 本書を開くとまず驚かされるのは、序章のあらゆる場所の国境の写真である。よくぞここまで各地を回り、写真を撮影してきたものだと敬服する。そしてあらためて多様な国境の姿があるものだとも実感させられた。同時にフィールドワークが重要であることも十分良くわかる。

 「『学会にかこつけて遊んでいるのか』などとクレームがつくことも少なくなかった」と著者は書いているが、実際に現場に足を運ばないとわからないことがたくさんあることは筆者(中村)も経験から理解できる。

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