イノベーションの風を読む

2016年7月20日

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川手恭輔 (かわて・きょうすけ)

コンセプトデザイン・サイエンティスト

1990年代から、大手メーカーでインターネットサービスの企画・開発・運用を手がけ、自ら立案したグローバルなサービスを複数立ち上げた経験を持つ。その1つは、サービスのデザインでグッドデザイン賞を受賞した。コンピューターサイエンス関連の翻訳本も多数ある。

次の狙いは精密農業

 安倍晋三総理は、昨年1月に開催された「未来投資に向けた官民対話」において「第4次産業革命はスピード勝負であり、自動走行、ドローン、健康医療は、安全性と利便性を両立できる有望分野だ」とし、ドローンについては「早ければ3年以内に荷物配送を可能とすることを目指し、2016年の夏までに制度整備の対応方針を策定する」との意欲を示した。

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 すでに映像空撮や農薬散布といった商業用途のドローン活用のサービス市場は確立しており、測量や設備の点検といったアプリケーションも立ち上がりつつある。しかしWedgeの記事で指摘したように、都市部における「荷物配送」には、ドローンの飛行技術や法律の整備以外に、複数の企業が飛ばす荷物配送ドローンを管制するインフラの整備が欠かせない。ドローンによる荷物配送の実証実験がいくつか行われているが、DHLやUPSのように、日本でも山間部や離島での緊急物資の配送というところから始まるのだろうか。

 欧米ではドローンを精密農業へ応用することが始まっている。聞きなれない言葉かもしれないが精密農業では、地上に設置した環境計測ロボットによって湿度や温度を継続的に測定したり、人工衛星によるリモートセンシングによって土壌内の肥料や農薬の残存量を測定したり、撮影された可視光と赤外線の写真から合成した画像の解析によって作物の生育状況を確認したりなどして、田畑の領域ごとに、水やりや施肥、農薬散布などを細かく調整し、作物の収量監視、収穫量のばらつきの制御、土壌管理などを行っている。これらの情報収集をドローンによって行うことによって、さらに精度の高い効率的な精密農業が可能になる。

 米国では生産性向上を目的として、コスト低減効果が出やすい大規模農家を中心に精密農業が普及している。それに対し、欧州では環境保全を目的とした精密農業の導入が行われている。人口密度が高い欧州では、農業による水質の汚染、野生生物の生育地の減少等の住民に直接影響を及ぼす問題が多いため、住民の環境に対する意識が高く、農業による環境負荷を低減することが求められているという。

 2月に合意されたTPP協定が発効し関税が撤廃されると、日本の農業の生産額と食料自給率が大幅に低下すると言われている。日本の農業をグローバル化してその体質を強化し、生産性の向上や農産物の高付加価値化などによって、輸出など新たな需要を開拓しなければならないことは明白だ。グローバル化に関して、例えば残留農薬の国際基準は、作物ごとに、その国の気候風土や害虫の種類、農薬の使用方法、食品の摂取量などが考慮されて決められているので、日本の基準値とは異なることがある。また農業生産の各工程の正確な実施、記録、点検及び評価を行う農業生産工程管理のGAPへの取り組みも遅れている。

 i-Constructionのように、国の政策によって日本の農業のICT化と精密農業の導入を強力に推進する必要があるのではないだろうか。それは農業だけでなく、新しいビジネスを創出することにもつながる。

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