BBC News

2016年7月15日

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ジャスミーン・テイラー=コールマン、BBCニュース

初めは米国人だった。大統領選へ向けた共和党候補指名争いの予備選、党員集会が集中する3月のスーパーチューズデーで、実業家のドナルド・トランプ氏が11州中7州を制した後のことだ。米国では記録的な人数が、グーグルでカナダへの移住方法を検索した。

そこに最近、英国も加わった。欧州連合(EU)離脱をめぐる国民投票で、離脱派が52%対48%と残留派を破ってからの数日間、「カナダへの移住」を調べるグーグル検索件数が過去最高に達した。

自分たちの国がEUの規則から解放される時を心待ちにする有権者も多い一方で、結果に失望して海外移住を考え始めた英国人がいる。グーグルの報道支援事業「ニュース・ラボ」のデータ・エディター、サイモン・ロジャーズ氏によると、最も人気のある移住先のひとつがカナダだったという。

確かに、カナダの息をのむほど美しい景観や広々とした土地は魅力的だ(国土の広さは世界第2位)。外国人に友好的な国民性も有名だし、政府は寛大な移民政策を誇る。そのうえ首相のジャスティン・トルドー氏は、カメラの前で腕立て伏せをしたり、パンダと記念撮影したり、おまけに量子コンピューターにも詳しいときて、世界中から人気を集めている。

とはいえ、いくらなんでもカナダにだってもちろん欠点はあるのでは?

この記事のためにBBCが調査してみたところ、回答した多くの人が「カナダは住むのに素晴らしい場所だ」と断言していた。

ただしカナダでの暮らしには、英国人や米国人に移住を再考させるかもしれない点がいくつかある。それを紹介しておこう。

カナダの冬はとても寒い。これに驚く人はいないだろう。所によっては気温が摂氏マイナス40度にも下がり、風が吹いた時の体感温度はさらにこたえる。

では暖かい季節になったらというと、それはそれで外に出たくなくなる理由があるのだ。

カナダでは人を刺さない小さな虫のほかに、厳しい気候に適応した何十種類もの蚊が全土に分布している。

「こちらへ引っ越してきた時、だれも蚊のことは言っていなかった」と話すのは、2014年にカナダの北西準州へ移ったBBCスポーツのオリー・ウィリアムズ記者だ。

「全然知らなかった。1年の半分以上は凍っている場所に、こんな虫が生息してるなんて。こんな場所に、こんな親指大の血に飢えた虫がいるなんてあり得ないと、なぜか思い込んでいた」

「大間違いだった。後になって知ったのだが、蚊は超低温の冷凍状態で冬を越し、春になれば復活してくるんだ。夜に犬を外へ出そうとすると、待っていましたとばかりに襲ってきて、露出している肌という肌をやられてしまう」

生活費

米国人なら慣れていることだが、勘定書に売上税やチップなどの額が追加されてくるのに、英国人は「いささか」驚くかもしれないと、ウィリアムズ記者は言う。

「表示の値段はいつも、レジで最終的に払う金額よりも安く書いてある。どうして市民にこんな計算練習をさせるのか。英国と同様、値札には最終的な値段を書いてくれればいいのに」

日常的な食料品の値段は、カナダドルの対米ドル相場によって決まる。カナダで消費される果物や野菜の大部分は輸入品なので、為替変動の影響を受けやすいのだ。

カナダ紙グローブ・アンド・メールに家計関連のコラムを執筆するロブ・キャリック氏によると、今年初めに生鮮食品の価格が「急騰」し、市民は「支払う額が大きくてがく然とした」。

値上がりはその後収まっているが、転入者の家計を圧迫しそうな品目はほかにもある。

カナダは主要産油国だが、それでも米国から来た人は石油が高いと感じるだろう。ガソリン1リットルが米国では67セントのところが、カナダでは米ドル換算で91セントになるので。

一方、英国ではガソリン1リットルが米ドル換算で1ドル45セントなので、それよりむしろビールやワイン、蒸留酒の値段に驚くかもしれない。酒類には石油と同様、高い税金がかかっている。またカナダ国内の地域によっては、酒を買ったり飲んだりできる場所が法律で厳しく制限されている。

住宅市場

バンクーバー、トロントの両都市では住宅価格が高騰し、持ち家を買えない人が増えている。住宅バブル崩壊への懸念も募る。4月には、カナダの住宅金融公社が、国内最大級の住宅市場15カ所のうち9カ所が、適正価格より割高になっていると指摘した。

バンクーバー都市圏の不動産協会が今月発表した統計によると、市内物件の平均価格は過去1年間で32%余り上昇し、91万7800カナダドル(約7160万円)に達した。

またトロントの不動産協会は先月、市内の住宅の平均価格が1年間で17%近く上がり、77万5400カナダドルになったと発表した。

「バンクーバーもトロントも、住んだらとても楽しい町の上位に入るが、どちらも住宅市場がけた外れに高い」と、キャリック氏は指摘する。

「高い物件を買う富裕層は十分いるわけだが、その一方で、低中所得層は手が届かずにはじき出されるケースが増えている」という。

比較すると、英国で最も住宅が高いロンドンの平均不動産価格は、今年6月で前年同期比9.9%増の約47万2384ポンド(約6600万円)だった。

英国のEU離脱による経済的な余波で、カナダで住宅を買う外国人が増え、急成長を支えることになるだろうと予測する専門家もいる。だが国内の多くの人にとって、持ち家の夢は遠のいていくばかりだ。

それでもカナダへ移住する人たちの理由

・健康的なライフスタイル

・景観

・友好的との定評

・性的少数派の権利尊重

・他国より長い産休

・女性の活躍機会(閣僚の男女比さえ半々)

不平等

多くの国と同様、カナダでも超富裕層への富の集中が進んでいる。経済協力開発機構、カナダでは上位10%の富裕層の平均所得は、最下位10%の8.6倍だという。

所得格差は英米ほど大きくないが、トルドー首相は選挙中、取り組みを約束していた。

トルドー政権の最初の予算には、年収約4万5000~9万ドルの層を対象とした減税措置が盛り込まれた。だがこれでは不十分だとして、追加措置を求める声も上がっている。

一方、今年4月に東部オンタリオ州アタワピスカトの先住民居住区で自殺未遂が相次いだことにより、国内140万人の先住民が直面する貧困と孤立の深刻さが改めて注目を集めた。

いまだ評価定まらない首相

トルドー氏は「トルドーマニア」と呼ばれた熱狂の波に乗って首相の座に就き、その後9カ月の間に諸外国でも人気が急上昇している。

メディアの関心は主に、44歳という若い首相のスポーツマンぶりや写真写りの良さに集中してきた。議員の腕を乱暴につかみ、その勢いで別の議員にひじをぶつけて異例の批判を浴びるなど、ちょっとした騒ぎはいくつかあったものの、支持率の高さに変わりはない。

ただしトルドー氏が国の統治という面でどの程度の成功を収めるか、判断を下すのはまだ早いと、評論家たちは指摘する。

著作家でブロガーのカナダ人、ローレン・メサーベイ氏は「首相は美男子のイメージを払拭(ふっしょく)する必要がある」、「私が思うに、このイメージは本人にとってプラスというよりマイナスに働いている」と話す。

「トルドー氏はこれまで政権幹部や世論、諸外国の首脳らに向け、ただの美男子ではないことを自らあえて証明してこなくてはならなかった」と、同氏は指摘する。

同氏は「今のところ、人の心をつかんで興奮させる才能という点では素晴らしい実績をあげてきた。とはいえいずれ時がたてば、統治者としての力量も分かってくるだろう」と話している。

(英語記事 Keen to move to Canada? Here are some things to consider

提供元:http://www.bbc.com/japanese/features-and-analysis-36801521

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